和歌山市西浜の電器店「ナルデン」は全国的に注目されている街の電器屋さんです。昨年末、経済産業省の製品安全対策優良企業表彰で銀賞に輝き、3度目の全国表彰を受けました。これは大手電機メーカーでも例はなく、きめの細かい地域密着の姿勢が高く評価されています。

 ナルデンは1971年に社長の成瀨静夫さん(73)、妻の恵伊子さん(72)が創業しました。住民との接点を育てるのに力を入れ、お客さんの生活環境をふまえ家電を提案し、丁寧なフォローを心がけてきました。電球1個、手すり1本と困り事に対応し、家の鍵を預けてくれるお客さんが出てくるほど信頼を得ました。

 そんな中、介護の悩みを耳にすることが増え、介護用品の販売やレンタル、住宅改修を行う介護部門を2000年に新設。「つどいの家」を立ち上げ、健康体操など教室を開き、高齢者の交流、介護予防に乗り出します。恵伊子さんは「地域の方々と重ねた時間の中で直面した課題として向き合いました」。マーケティングではなく、地域の変化に添うことで介護部門は根付き、転倒防止の「ちょこっと手すり」の開発へ至ります。

 さて興味深いのは同店の次世代を担う、店長の裕之さん(46)と福祉部門担当の真人さん(40)の兄弟が地域密着に真逆の考えを抱く点です。裕之さんは「地域で培った、販売から納品、補修まで顔の見える関係で進める街の電器屋スタイルをビジネスモデルにし、異業種に取り組み、地域貢献できる企業になりたい」。一方、真人さんは「企業化すると、店を遠く感じる人が出る。地域に根ざし、皆さんに応援される古き良き電器屋さんでありたい」と望みます。

 育てるか、守るか。違いはありますが、信頼を軸にする点で同じです。家電を買う時、私たちは価格を気にし、安心し、使い保つのを忘れがちです。それにはお店とのふれあいが必要です。普段はともかく、いざ災害などで困った時、「金さえ払えばだれかなんとかしてくれる」との考えがいかに浅はかかを痛感します。

 同店の掲示板には地域活動の案内がびっしりです。地域コミュニティの価値が見直される今、昔ながらのかかわりにある大切なものを守り、そこから未来の発展を志す。地域密着に加え、暮らしをより豊かにする視点に学びたいです。(髙垣善信・ニュース和歌山主筆)

(ニュース和歌山/2019年9月7日更新)