和歌山市加太は古くから修験道とのゆかりが深く、つながりは千年を超えます。

 6月に文化庁の日本遺産に認定された「葛城修験」の道は、山岳宗教である修験道の開祖、役行者が法華経を埋納したと伝わる経塚「葛城二十八宿」に沿います。経塚は加太から奈良へ至る山系にあり、今も山伏たちの修行の地です。友ヶ島には葛城修験の始まりの地となる「序品窟」があり、加太では毎春、行場へ渡る修験者を迎えます。

 その一つとして加太ではかつて海辺で大護摩供が行われていました。数十年前に絶えていたこの大護摩供を5年前、加太浦大護摩供顕彰会が加太海水浴場で復活させました。地元でまちおこしを目指す有志が文化財行政で仕事をしてきた藤井保夫さん(74)に相談し、立ち上げた会です。

 ひのきの丸太で護摩壇を組み、海を背景に京都聖護院の山伏が護摩木を焚き祈願する様は勇壮です。「海が見える場所で修験者が護摩を焚く光景は全国的に極めて珍しいですよ」とメンバーの幸前次朗さん(47)は言います。

 同会は日本遺産の認定を目指したものではありませんでした。修験道の持つ精神性を次の世代に伝えたい。修験を加太の地域資源として世界へ発信したいとの思いからです。会長に就いた藤井さんは「修験道には脅威と恵みの両面を持つ自然の中で、人間が生かされているとの精神がある。現代の子どもたちが直面する課題を克服する力を感じます」と力を込めます。

 加太が世界に近いのも可能性です。「関西国際空港からコンパスで半円を描くと、葛城修験の道はすべて入る。高野山、熊野を見ても日本の伝統文化は外国人をひきつける。加太へも来てもらいやすいと思う」と構想します。

 加太も新型コロナウイルスの感染拡大で訪れる人が減り、今春の採燈大護摩供は宣伝せず開催し、病疫の退散を皆で祈りました。それでも日本遺産認定を追い風に、地域に根ざした文化遺産が同時に世界への広がりを持つ理想的な形が視野に入ってきています。高めてきたこの地域力が発揮される春を待ち遠しく思います。 (髙垣善信・ニュース和歌山主筆)

写真提供=加太観光協会

(ニュース和歌山/2020年8月1日更新)