医を多面的に考える

 日本の医療事情は、平均寿命、重症疾患患者の死亡率、医療機関へのかかりやすさ、医療費等どれをとってもトップクラスであり、2011年のOECDヘルスデータではスイスや北欧等の福祉国家と言われる国々を抑えて加盟先進34ヵ国中1位でした。

 しかし、多くの日本人はこの医療体制に必ずしも満足しておらず、意識調査を行うと不安や不満の声が数多く報告されています。その背景には、自分が健康と感じている人の割合が低いことや、患者さん自身が自由に医療機関や診療科を選べることが裏目にでている可能性があります。

 厚生労働省の指導に基づいて各都道府県が作っている医療計画では、地域ごとに医療圏が決められていますが、多くの地域で医療圏を越えて病院を受診するのは普通に行われています。

 医療圏を越えた診療は救急搬送の場合、さらに問題が複雑です。本来は、市町村が設置している夜間休日診療所や当番医で対応すべき比較的軽い病気の患者さんも、119番通報によって受診することが増えており、救急車の出動件数は全国的に年々増加しています。その結果、通報されてから、現場に救急車が到着するまでの時間や病院に搬送されるまでの時間が、少しずつ長くなっていることも大きな問題です。

 救急搬送が増えているもう一つの原因は、高齢化です。救急搬送される患者さんの過半数が65歳以上で、増え続ける社会保障給付費の中で年金と共に高齢者に係る医療費が大きな割合を占めている現状は、将来的に国全体の医療を縮小せざるをえなくなる危険をはらんでいます。

 対策として、病気の予防や検診を促進し、医療費を抑制しよう、という施策が進められていますが、健康寿命が伸びた先には、さらに高齢になってから、大きな医療が必要になるかもしれないという矛盾があります。根本的な解決には、どこまで公的な医療を提供できる社会にするのかを、国民全体で考えなければならない時代が迫っています。

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 和歌山大学とニュース和歌山は原則毎月第1土曜に和歌山市西高松の松下会館で土曜講座を共催しています。次回は2月7日(土)午後2時、テーマは「〝医〟と観光の関わりについて」です。

(ニュース和歌山2015年1月31日号掲載)