「からころころりん」「つつてんつつてん」──。心地よい擬音が歌詞にある『黒江からころ為(ため)の女(ひと)』は、紀州漆器の街・海南市黒江の夏の風物詩、下駄市を歌った「ふるさと癒やし歌」です。

 下駄市は100年以上の歴史があるといわれ、江戸時代に漆器職人が、盆の薮入りに新しい下駄でふるさとへ帰省する習慣に合わせて開かれた市が始まりとされます。多くの夜店が並びにぎわいます。私も赤い鼻緒のかわいい下駄を買ったのを懐かしく思い出します。

 初めて黒江を歩いた時、風情たっぷりの街並みに魅了され、地元のご婦人たちが、古民家カフェ「黒江ぬりもの館」で古きものを大切にしながら、生き生きと働く姿に感動しました。そういうご縁からこの歌が生まれ、「黒江の町並み景観づくり」イメージソングになりました。

 歌が誕生した翌年の2013年、東京・日本橋にある宮内庁ご用達の老舗漆器店、黒江屋さんの特設会場で“黒江からころ…歌とセミナーで楽しむ紀州漆器展”のセミナー&ライブを、黒江の皆さんと行いました。「橋爪靖雄・玲子、黒江の二人漆展」に合わせ、池庄漆器店当主の池原弘貴さんが講演。その後、クラシックギター小谷允城さんの伴奏で漆のようにうるわしく、しっとりと披露しました。黒い黒江スイーツも好評でした。

 初めてこの歌を聞いた方からよく質問されます。「いい歌ですね。歌詞の意味は?」と。そう、「からころ」は下駄の音、「つつてん」は海南市無形文化財「つつてん踊り」にちなんだ三味線の音、そして曲名の「為の女」の「為」は、漆器の「溜(ため)塗り」からです。深みのある溜塗りと、時を経ても輝きを増す女性を掛け合わせています。

 今年7月にラテン歌謡ライブを開き、『黒江からころ為の女』を涼し気なボッサのリズムにアレンジして歌いました。皆様の納涼と、来年は下駄市が開催されるよう祈りを込め、ユーチューブで視聴くださいね。

演歌歌手 宮本静(第4週を担当)

(ニュース和歌山/2022年8月27日更新)