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 なかよし村の大きなブナの木の幹に、ある服屋さんがあります。そのお店は少し変わっていて、毎日さるくんがせっせと働いています。「さて、今日もがんばるぞ」。さるくんは閉店の文字を開店の文字にかえました。

 最初にやって来たのは犬くんです。犬くんは、「しまうまさんの誕生日プレゼントをあげたいんだ。なにかいい物をつくってくれる?」とたのみました。「いいよ。喜んでもらえるようにがんばるね」。さるくんはニコリと笑って言いました。

 さるくんは町を歩きながら考えます。「しまうまさんにはどんな服が似合うかなぁ、そういえば、しまうまさんはリンゴが好きだった」。さるくんは急いで八百屋さんに向かいます。

  「おう、さるくんいらっしゃい。今日も新せんな野菜やくだ物が入ってるよ」。八百屋のやぎさんが店のおくから顔を出してさるくんに言います。「やぎさん、 リンゴはありますか」「ああ、ちょっと待ってくれよ」。そう言ってやぎさんはおくから出てきました。「はい、200円だよ」。やぎさんの手にはリンゴが2 つ。さるくんはお金をはらってリンゴを受けとりました。「まいどー、また来てね」。やぎさんに手をふって、さるくんはブナの木へ戻りました。

  「さて、これからが忙しいぞ」。さるくんは真っ赤なリンゴを見て言いました。そして、金色に輝くキラキラした針をとり出しました。プスリ、と音を立てて針 はリンゴにささります。そのままリンゴから針をとりだすと、針にはリンゴと同じ真っ赤な糸がついています。さるくんはていねいにその糸を使って服をつくり ます。やっと完成すると、リンゴは1きれになっていました。

 「ありがとう。しまうまさんとっても喜ぶよ」。顔を輝かせながら犬くんが言いました。さるくんは残ったリンゴをかじりながら、犬くんの背中を見おくりました。

 さるくんは村の皆にたくさんの服をつくります。おしゃれな猫さんには夜空のワンピースを、寒がりな熊くんには桜のセーターを、ライオンの村長さんには海のコートを。さるくんの周りは笑顔でいっぱいです。

  ある日、烏(からす)さんがやってきました。「やあ、こんにちは烏さん」「こんにちは」。烏さんは礼ぎ正しく頭を下げてあいさつしました。「それで烏さ ん、今日はどうしたの」。さるくんが烏さんに聞くと、烏さんは悲しそうな顔をして言いました。「烏って真っ黒でしょ。だからきれいじゃないなーって。もっ と自分に自信が持てる服をつくってくれる?」「分かりました」。さるくんは胸をはって言いました。

 烏さんが帰ったあと、さるくんは悩みま す。「どんな服がいいかな…」。外の景色もさるくんの気持ちのように雨がしとしと降っています。ずっと悩んでいると、外の雨があがったので外に出ることに しました。歩きながら悩んでいるとふと上を見ました。すると「わぁ、凄い…きれい」。そこには大きな虹がかかっていました。さるくんは虹に近づいて針を通 します。スーッと針が通ると針にはきれいな七色の糸が出てきました。それを集めてブナの木へ帰ります。いつも以上にていねいに服をつくりました。

  「さるさん、出来たって聞いたんだけど…」。烏さんは自信なさそうにドアを開けました。「うん、今回は自信作」。ニコリと笑ってさるくんはラッピングされ た服をわたしました。烏さんがあけるとそこには、キラキラ輝く虹色のセーターが入っていました。「わぁ、きれい」。烏さんの表じょうもセーターのようにキ ラキラした笑顔に変わりました。「ありがとうございました」。烏さんの笑顔を見てさるくんも笑顔になりました。

 「またのおこしをおまちしております」。今日もさるくんは一人せっせと働いています。

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おはなしボランティアきいちご代表、北裏祐子審査員…金色に輝く不思議な針をリンゴにさすと、真っ赤な糸がついてくるという発想がとてもすてき。村のみんなに作った服のネーミングも、烏さんへの虹色のセーターも美しく夢があります。こんな服屋さん、あったらいいなぁ。

(ニュース和歌山2016年1月9日号掲載)