和歌山市で生まれ、明治〜昭和にかけ、奇術界で活躍した金沢天耕。9月29日㊐に同市で開かれる舞台「酔筆奇術偏狂記」では、その大胆な人生が描かれます。今回は舞台の脚本を担当した天耕の孫、寿美さん(40)に彼の魅力や舞台の見どころを聞きました。

 

マジックへの情熱

──どんなおじいさんでしたか?

 「私にとっては、優しいおじいちゃんでした。小さいころに簡単なマジックを教えてくれたのを覚えています。ただ、親族からは『遊び人』『自由奔放』との声が多いです。お酒や女性好きで、どうしようもなかったと聞きました」

 

──天耕さんの魅力は?

 「親族以外から聞いたのは、知り合いの性格や情報を一人ひとりノートに書き留め覚えたり、別荘に仲間を集めて宴会をしたりと、人に対する愛情がとても深い人だったそう。たくさんのマジシャンから『先生』と慕われ、強い人間味を感じます。また、東京に次いで全国2番目のアマチュアマジシャンズクラブを和歌山で立ち上げており、好きなものにかける情熱の強さも人間としておもしろいですね」

 

──今回の公演にいたった経緯を。

 「大阪で活動する劇団レトルト内閣で脚本や演出をする中で、和歌山出身の役者が『地元で演劇をする機会がない』と都会に出て活動しているのを知りました。この舞台をつくるにあたり、和歌山の歴史を調べると、昔はマジック、ビリヤード、舞台観劇など流行に敏感な人が多かったようです。その気風はまだ残っているはずと、和歌山にかかわりのある役者と地元を題材にした舞台をつくり、演劇シーンを盛り上げたいと、『演劇街道きのくにプロジェクト』を立ち上げました」

 

魅力あるキャラ

──見どころは?

 「ぶらくり丁や和歌浦など、和歌山の人になじみのある場所がたくさん登場します。年配のお客様には、明治〜昭和の地元の風景を、芝居を通して感じてほしい。そして、今、和歌山に住んでいる若い人たちには、元気だった和歌山の街並みを知ってもらいたいですね。また、現在の和歌山マジシャンズクラブによるマジックも見られるので、バラエティに富んだ内容ですよ」

 

──脚本を考える際、気をつけたことは?

 「あえて祖父の良い部分ばかり書かないようにしました。当時営んでいた呉服店のお金でマジックの道具を買いこんだことや、女癖の悪い部分も書くことで、良くも悪くもひとりのキャラクターとしての魅力を引き立たせました」

 

──この作品に対する思いは?

 「昔、親族に『好きなことをやってるのがおじいさんに似てる』と言われました。実際、私が思っていた優しいおじいちゃんとは違う大胆な人柄を知り、一人の脚本家として、いつか舞台にしたかった。それを和歌山で実現できるのがとても感慨深いです」

 

舞台「酔筆奇術偏狂記」

 9月29日㊐午後1時と4時半の2回、和歌山市民会館小ホール。
 3000円、当日3500円。同館で取り扱い。また、HP「演劇街道きのくにプロジェクト」で予約可。同プロジェクト(073・495・3345)。

(ニュース和歌山/2019年9月7日更新)