人とのつながりを求め、人力車を相棒に全国を旅する若者がいます。和歌山市の上田樹生さん(22)です。語学留学をきっかけに、もっと広い世界を見たいと考え、まずは生まれ育った日本を知ろうと昨年6月にスタート。各地で暮らす人々と交流しながらの挑戦です。

交流求めて

─スタートから7ヵ月が過ぎました。

 「寝袋とテント、着替えを積んで和歌山を出発したのは昨年6月10日です。奈良を通って京都から秋田まで日本海側を走り、北海道を一周した後、青森から三重まで太平洋側を南下。近畿を抜けて山陰を巡り、今は九州にいます。今後は四国、山陽を経て、3月か4月にゴールの予定です」

──なぜ日本一周を?

 「大学中退後、仕事をしていましたが、2021年4月から半年間、南太平洋の島国、フィジーへ語学留学しました。自分の見ていた世界の狭さに驚き、広い世界を肌で感じたいと考えるように。一方、生まれ育った日本にも知らない場所はあるので、まずは国内を巡り、多くの人と交流しようと考えました」

──相棒は人力車です。

 「友人が提案してくれました。目立つため、走っていると声をかけてくれる人が多く、道中、お世話になった人を乗せることも。クリスマスは長崎県の壱岐島で、サンタ姿になり、子ども向けに試乗会を開き、喜んでもらいました」

20代の経験

──印象深いことは?

 「人と会うためのルートを決め、目的地を目指してストイックに走っているので、観光地にはほとんど行ってません。ただ、30~40㌔を走った後に見る夕日が一番きれいだと知りました。小学校時代からの友人が鳥取~島根間を並走してくれたのはうれしかったです」

──どんな出会いが?

 「2度通った京都で、1回目に会った人がSNSをチェックしてくれていて、2回目にお弁当を持ってきてくれました。鳥取で知り合った島根の人が、島根を訪れた際にちょうど僕の誕生日だからと、シューズと靴下を贈ってくれたことも。『今日も走っていてよかった』と思う瞬間が毎日あります。奇跡を信じるタイプじゃないけど、この人と今日、ここで会うためにこの道を通ったんかなと運命を感じます」

──他には?

 「東日本大震災の被災地を訪れたのは貴重な経験でした。宮城県気仙沼市の遺構・伝承館を見学し、気仙沼出身の友人の父親やその知人に被災時のことを教わりました。津波被害を受けた当時の街や人の様子、少しずつ復興していく中で人々の助け合いやつながりが大きかったこと…。テレビではなく、実際に訪れる大切さを実感しました」

──今後は?

 「僕のモットーは“20代の時間とお金は経験に使う”。始めてしまえば想像していたよりハードルは高くなく、どんなことでも思い切ってやった方がいいと気づきました。コロナ禍で人とのつながりが希薄な今だからこそ、『会いに行く』ことを大切にし、楽しみたいと思います」

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 近況は上田さんのインスタグラム(@shu_the_world)で。

 

(ニュース和歌山/2023年1月21日更新)