鹽竃神社和合の松 2世誕生 倒れた木の枝から後継樹

  「しおがまさん」の名で親しまれる鹽竃(しおがま)神社(和歌山市和歌浦中)のシンボル「和合の松」の2世の苗木が育ち、4月21日(土)に同神社へ植樹される。樹齢数百年と言われ、人々が子授け、安産を祈る姿を見守ってきたが、2012年に倒れ、根だけの状態が続いていた。隣接する玉津島神社関係者が倒れた松からの再生を思い立ち、和歌山県林業試験場(上富田町)が協力した。関係者は「再び人の願いを受け止める大樹に育ってほしい」と望んでいる。

 子授け、安産の神様として知られる鹽竃神社。古くは和歌浦の入江の「輿の窟(こしのいわや)」という岩穴で、丹生都比売神社(かつらぎ町上天野)の神輿が玉津島神社に渡る「浜降(はまくだ)り神事」の際は神輿を清めるなど玉津島神社の祓(はら)い所だった。漁業の安全、寿命の守り神でもあり、参拝者は今も多い。

 長年境内にあった「和合の松」はクロマツで、樹齢500年との説もあり、幹の直径は1㍍を超えた。根が夫婦和合の姿を表し、参拝者は根に触れ、子授かり、安産を祈った。鏡山を背に立つ姿は、和歌浦干潟と合わせ美しい景観をなし、明治期の絵ハガキにも見ることができる。

 しかし、2012年6月、和合の松は突然倒れた。衝撃は大きかったが、すぐ再生を考えたのが和歌の浦万葉薪能の会の松本敬子代表。「本殿や神輿の修復など玉津島神社の力になった篠田めぐみさん(故人)ならどうするか。その時、きっと2世を作ろうと言ったに違いないと思いました」

 松本代表は知人の樹木医、岡谷善博さんに相談。岡谷さんは「公的な樹木の後継樹なら育成に協力してくれるはず」と県の林業試験場に依頼し、倒れた樹木から約20本の枝を採取し送付した。

 その後、約3年、同試験場が湿度と温度管理のもと育苗室で後継樹を育成。2年前からはこのうち4本を、名勝和歌の浦玉津島保存会会長の奥津尚宏さん宅の庭に移し、うち1本が約50㌢に育った。岡谷さんは「倒れた時期が乾燥した冬場だったら、難しかったと思う。樹は水分が減っていたが、林業試験場の協力があり、つなぐことができた」と感謝する。

 松があった敷地は県が管理する和歌公園内のため許可を得て、きょう午前10時、神事の後に植樹する。今後は岡谷さんのアドバイスを受けながら同会で水やりを行い育てる計画で、同会の渋谷高秀事務局長は「干潟をにらむ形で景観をなし、名勝和歌の浦を見守る存在になってほしい」と話す。

 岡谷さんは「和合の松の遺伝子をそのまま継いでおり、いわばクローン。根をふくめ同じ形になる可能性は高い。100年以上はかかると思いますが」。松本代表は「県林業試験場はじめ、多くの人の協力で後世につなげ、うれしいです」と喜ぶ。

 和歌の浦の日本遺産認定に続き、和歌山市が作成した「歴史的風致維持向上計画」を国が認定し、玉津島神社隣接地に観光交流施設が設置される方針も明らかになった。和歌浦の新たな一歩に重なる2世誕生。玉津島神社権禰宜(ごんねぎ)の遠北(あちきた)喜美代さんは「多くの人の思いを受け止め安心を与えてきた松が生まれ変わる。自然のすごさを感じます。安心立命を与える松に成長してほしいです」と願っている。

写真上=玉津島保存会の奥津尚宏会長宅で育った和合の松2世、同下=明治期の和合の松(溝端佳則さん提供)

(ニュース和歌山/2018年4月21日更新)