数々の映画賞を総なめにしたアニメ映画『この世界の片隅に』を見た。昨年11月の公開当初、劇場は限られていたが、口コミで話題になり、今年から和歌山でも上映されるようになった▼時代は戦前・戦中の広島。東洋一の軍港の街、呉市に18歳で嫁いだ浦野すずの日常を色鮮やかに描き出す。野草を摘んでおかずに、着物をもんぺに。遠くから心配してくれる家族、不器用ながらも確かな愛を注いでくれる夫に支えられ、厳しい暮らしの中にもささやかな幸せを見出す。しかし、次第に戦争が影を落とし、悲劇の原爆が…▼強いメッセージを訴える作品ではないが、戦争の悲惨さが身に染みて伝わる。上映中飲み物を口にすることなく見入り、知らない間に涙がこぼれ、止まらなかった▼食べる物がある幸せ、家族がいる幸せ、何かにおびえず生きられる幸せ。決して華のある暮らしではないが、この世界の片隅にあるありふれた今の日常がとてつもなく愛おしく、かけがえのないものに思えてならなかった。 (秦野)

(ニュース和歌山より。2017年2月11日更新)