少しずつ暖かくなった春の朝、91歳の祖父を見送った。入院することなく最期まで家族と過ごし、ゆっくりと別れの時間を持てたことが有り難かった。介護に当たった叔母家族には頭が下がる思いだ▼同じころ、朝日新聞の投書欄で話題になったのが、71歳男性の「妻が願った最期の『七日間』」。少しの間と思っていた入院で不帰の人となった妻が、台所で料理したり、手芸にいそしんだりと、最期の望みを詩にしたためた話が紹介された▼国の調査では、最期を自宅で迎えたいと答えた人は42・7%なのに対し、実際は75・0%が病院で亡くなっている。以前、往診に積極的に取り組む医師を取材したとき、「寝たきり、認知症、がん。実際にはポックリ逝くなんてできない。最期をどう迎えたいか考えておくこと」との言葉が印象に残った▼先の投稿の結びでは、夫に手をとられ旅立つという願いだけは叶えられた。だれしも来る「いつか」を考え、身近な人と語り合う〝終活〟の一歩に早すぎることはない。 (島本)