ポポロビルのキディランド、向かいのワオキャーマンビルの服屋、丸正百貨店の無印良品に桃色百科…。15年ほど前の高校時代、毎日のようにぶらくり丁に通った▼同世代のアラサー女子に水を向けると「マクドがメッカだった」「古着屋のお香のにおいがすごかった」と盛り上がる。記録には残らない、記憶の話▼今、ぶらくり丁へ行くと、あれがまだ十数年前の風景だったことがときどき不思議に思える。最近はビルそのものが建て替わるなどし、面影は薄くなってきた。知らぬ間にスタンド街のつきじ横町も閉鎖された▼幕末から明治の和歌山を生きた川合小梅は、庶民生活を70年間も日記につづった。現在、「小梅日記を楽しむ会」が毎年3月、ゆかりのある正住寺で雛祭りを開き、昔の和歌山に思いをはせる▼近くて遠い1990年代以降の何てことのない記憶もまた、数十年後には貴重な歴史史料となり得るのかも。せめて新しい建物が建った時には「前、ここ何やったっけ?」と気にとめたい。(宮端)