2021年開設予定の新しい和歌山市民会館小ホールの設計に文化団体から異論が出ています。先月22日には、文化団体の代表者が設計見直しを求める署名を和歌山市長に提出しました。また、市議会経済文教委員会は実施設計に関連する予算案は可決しつつ、市に市民や各種団体の意見を十分に聞くよう求める異例の付帯決議を全会一致で可決しています。

 新市民会館小ホールの現計画は、舞台を固定式の反響板が囲む形になっており、舞台袖、緞帳(どんちょう)がありません。クラシックコンサートには万全なのでしょうが、もし私が演劇・舞台関係者なら、演出に支障をきたすレベルではなく、新しい文化の拠点になる、新市民会館から閉め出されたと深く傷付くでしょう。と同時に、これは市の文化政策、まちづくりに関する課題として、幅をとって考えるべき一件と思います。

 和歌山市は、今、歴史的な転換点を迎えています。背景には、人口減少への対応と裏腹にある国の地方創生の推進があります。この中で、市の中心市街地には、大学が3つも開設され、そして新しい市民会館が伏虎中跡地にできます。また、新しくなる南海和歌山市駅のメーン施設のひとつは図書館と、教育、文化の施設が街の顔になろうとしています。文化都市へと変わろうとしているのです。

 ただ、それは街の目にみえる部分です。街の活気は一方で、市民の文化活動、そのつながりがなければ、生まれません。これまでも祭や音楽イベント、マーケット、スポーツ、街並づくりと市民の熱が街の盛り上げに一役も二役も買ってきました。日本遺産となった和歌の浦も今後の発信に地元の文化団体の協力は欠かせないでしょう。そういった団体の存在、活動、つながりは普段は目には見えないものの、和歌山の文化を支え、育てる生命線です。

 山積していた課題の克服に対し、全方位的に進める現在の市の推進力は高く評価するべきと思っています。しかし、新市民会館、また市駅前の開発計画においても「市民が置き去りだ」と不満の声が聞こえてきます。

 街の転換期だからこそ、スケジュールありきではなく、行政にはしっかりと市民とのコミュニケーションを尽くしてほしい。文化を活気づけるには様々な活動の発展以前に、まず豊かなコミュニケーションが地域にあってこそ、です。(髙垣)

(ニュース和歌山/2017年7月8日更新)