細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』はもうご覧になりましたか。歌の才能を隠し持つ片田舎の女子高生が、インターネットの仮想世界を舞台に成長するアニメーション映画です。

 実は細田監督の作品には全て、必ずどこかにクジラが登場します。夢占いで悠然と泳ぐクジラは「幸運」や「未来への希望」「物事の転換期」を示す吉夢とされ、それらを暗示する役割だとファンの間ではささやかれています。

 クジラと聞いて私が懐かしく思い出すのは、まゆ毛がチャーミングなオレンジ色のクジラ「ワックン」のこと。1994年にマリーナシティで72日間開催され、約300万人を動員し大盛況となった地方博覧会「世界リゾート博」のマスコットキャラクターです。デザインは、和歌山県が発祥の古式捕鯨に由来し、これにみかん色を合わせたそう。小学生だった私は、親にねだってキーホルダーを買ってもらった記憶があります。今や知る人ぞ知る存在ですが、当時は県のシンボル的存在で、後に登場する県PRキャラクター「きいちゃん」のように、地元の人たちに親しまれていました。

 もうワックンには合えないのでしょうか。いいえ、マリーナシティにある北防波堤で、27年前から現在に至るまで、青い地球に乗ってニコッとほほ笑む「ワックン灯台」が海と町を見守り続けています。第五管区海上保安本部交通部によると、灯火の明るさや構造物の規模が非常に小さいため、航路標識としての正式な名前はないものの、これほど構造物全体でキャラクターを表現したデザイン灯台は、国内では珍しいそうです。

 現在は日焼けをしてちょっぴり黄色がかったワックン灯台ですが、こんなご時世だからこそ、和歌山の未来を照らす存在として、再び注目されるといいなと私は思っています。

フリー編集者 前田有佳利(第3土曜担当)

(ニュース和歌山/2021年8月21日更新)