デビューして、間もないころでした。粉河祭の準備に忙しい紀の川市粉河の商店街であいさつ回りをしていると、「粉河の歌知ってる? 歌ってよ」と声を掛けられました。大門前にある観光特産センターこかわの店主、尾崎政雄さんです。差し出された歌詞カードを見て驚きました。なんと詞は昭和の大作詞家、星野哲郎先生、作曲は氷川きよしさんの師、水森英夫先生と書かれていたのです。

絵手紙作家、宮脇泰彦先生によるCDジャケット

 1995年に粉河で収録されたNHK番組「BS歌謡塾あなたが一番」内で、訪れた地元の歌を作るコーナーがあり、星野先生がとんまか通りを実際に歩いて書き起こしたもの。元気な門前町の風景や粉河祭のイキイキした様子が描かれた歌詞を、水森先生がFAXで受け取り、一晩で曲をつけ、放送に間に合わせたそうです。大先生方の曲にもかかわらず、だれに歌われるでもなく、「幻の名曲」となっていました。

 音源がない中、尾崎さんの声掛けで見つかった楽譜をもとに2013年、古民家山崎邸にて私がミニキーボードの弾き語りで披露。参加者全員で大合唱もしました。歌いやすく、情景が目に浮かぶ作品だけに、この歌をCD化し、地元を元気にしようと盛り上がったのです。

 偉大な作家の作品を全国発売するのは調整や許諾が必要ではと心配しましたが、東京にあるレコード会社のサポートで翌14年に完成。曲ができて実に19年ぶりのことでした。

 粉河寺での奉納歌唱を皮切りに、観音さんで知られる東京・浅草の老舗CD店、音のヨーロー堂や、星野先生のふるさと、山口県周防大島町の星野哲郎記念館で『門前町は恋の町』を発表。天国の星野先生に届けとの思いを込めて歌いあげました。

 私が通った粉河高校、そして甘酸っぱい思い出のある粉河祭が歌となり、今も歌うことができるって、なんて幸せな歌い手だろうと、感謝しかありません。

 粉河寺での奉納歌唱の模様です。

演歌歌手 宮本静(第4週担当)

(ニュース和歌山/2022年9月24日更新)