肌寒い季節になってきました。今回はほっこりする話題です。橋本市には「ゆの里」という知る人ぞ知る天然温泉があります。外観は普通の健康ランドのたたずまい。とあるご縁で約1年前に訪問し、不思議な「水」の物語を知りました。誕生ストーリーとともに、和歌山の秘めたる魅力の一端を紹介します。

 施設が建つ神野々(このの)は高野山のふもとにあり、かつて神野々寺(現在は廃寺)が隆盛を誇り、修験者が行き交うエリアでした。人々を救済する水のわき出す場所として、弘法大師、空海が予言を残した地とされています。

 そんな水の聖地で「ゆの里」を創業するには、苦労があったそう。地質調査では「水脈がないので水は出ない」と言われながら、高野山近郊で起こった地震をきっかけに1987年に地下水がわき、この3年後の90年に温泉が出ました。まさに空海の予言通り生み出された奇跡の水と温泉。地下水は金水、温泉は銀水と呼んでいます。

 水の魅力にかかわる話も枚挙にいとまがありません。「ほとんど宣伝もしないのに、全国各地からお湯とお水を求めて老若男女が集まる」「ロビーにある金水と銀水をブレンドした水槽では、淡水魚と熱帯魚が一緒に泳ぐ」「水の本質に迫る研究拠点として、国内の大学とコラボし、海外の著名な研究者が集う」などなど…。全国的に見ても、こんな魅力的な場所があることに驚かされます。

 地域活性化のために、「もっと魅力を発信したらいいのに」と移住者目線でついつい考えてしまいますが、「良さが分かる人に来てもらえたら」と自然体の姿勢にはとても共感を覚えました。

 有名になり過ぎて、従来からのファンの足が遠のいてしまうことはよくありますね。活性化やビジネスを優先するあまり、地域や事業が疲弊してしまっては本末転倒です。そんなことを改めて考えさせられる出合いでした。

和歌山大学・地域連携専門職員 増山雄大(第1週を担当)

(ニュース和歌山/2022年11月5日更新)