朝顔は 朝露負ひて 咲くといへど 夕影にこそ 咲きまさりけれ 作者不詳

 新しい元号、令和は万葉集を典拠とし、多くの人から注目されたのは、記憶に新しいですね。

 和歌山市岩橋の紀伊風土記の丘には「万葉植物園」があり、詠われている約70種の植物を、関連のある歌碑とともに観賞でき、人気の散歩コースです。今回は、園中央をまっすぐ進むと見えてくる水生植物のエリアから、見ごろを迎えるキキョウを紹介します。

 秋の七草の一つに数えられ、古くから多くの人に愛されてきた植物で、日当たりのよい草原に生える多年草ですが、今では野生のものは少なくなり、絶滅危惧種に指定されています。茎はまっすぐ上に伸び、葉の周りには鋸歯(きょし・ギザギザのこと)があります。つぼみは風船のようにふくらみ、英語ではバルーン・フラワーというそうです。暑くなると咲き始める花は鮮やかな青紫で、周りの緑にとても映えます。

 万葉集が書かれた時代には、キキョウのことを「あさがほ・朝顔」と呼んだと類推されています。他に、ムクゲ、ヒルガオだとかいう説も。キキョウを詠んだこんな歌があります。

 「朝顔は 朝露負ひて 咲くといへど 夕影にこそ 咲きまさりけれ」

 大まかな意味は「キキョウは朝露を浴びて咲くというけれど、夕方の光の中でこそ、美しく咲くのですよ」でしょうか。

 風土記の丘では毎年、6月中旬から咲き始めます。朝と夕方、どちらに風情を感じるか、ぜひ見比べてみてください。

 松下太…1955年、和歌山市生まれ。県生物同好会会長。県立紀伊風土記の丘非常勤職員。

(ニュース和歌山/2019年6月12日更新)