うちなびく 春さり来れば 小竹の末に 尾羽うち触れて 鶯鳴くも 作者未詳

 タケと一口に言っても、私たちの身の回りにはたくさんの種類が生えています。タケはイネ科で、最もよく知られているのはタケノコとして食べるモウソウチクでしょうか。他にもマダケやハチクなど背が高くて太いタケもあれば、今回紹介するメダケのような細いものもあります。

地味だが、生活に欠かせなかったメダケ

 かつてタケは、生活用品を作る上で欠かせない材料でした。それで周辺の野山で採集するだけでなく、資源を確保するため、家の周りに植えられたのではないでしょうか。

 メダケは林の縁や池の周りなどに普通に生え、藪を作ることもあり、小鳥や小動物のねぐらになっています。人にとっては厄介な竹藪ですが、自然の中では大きな役割を果たしているのです。昔、武家屋敷では、非常時に矢として用いるために、節の間が長く、枝の少ないタケが植えられたそうです。それでその種類をヤダケと言います。

 さて、万葉の昔、メダケのような小型のタケは、さらに小さなササと共にまとめて、「しの」や「しぬ」と呼ばれていたようです。万葉集にはこれを詠んだ多くの歌が残っています。その中から春の訪れを喜ぶ歌を紹介します。

 「うちなびく 春さり来れば 小竹の末に 尾羽うち触れて 鶯鳴くも」

 春が来て、竹の梢(こずえ)の先に尾や羽を触れさせながらウグイスが鳴いているよ──との意味です。「うちなびく」は春にかかる枕詞です。春が来たことを作者だけではなく、ウグイスまでが喜んでいる様子がよく表現されていますね。

(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太。毎月第3土曜号掲載)

(ニュース和歌山/2023年1月21日更新)