思ふ人 来むと知りせば 八重葎 おほえる庭に 珠敷かましを 作者未詳

 空き地をちょっと放置すると多くの植物が生えてきて、瞬く間に草むらになってしまい、草むしりが大変です。特につる草は厄介です。今回紹介するカナムグラは、日当たりの良い河原や林の縁などに生えるアサ科の植物で、長いつるが複雑に絡んで盛り上がります。

 

万葉の時代も嫌われていた雑草だったのかも

 漢字では「鉄葎」と書き、茎がとげだらけで硬く感じるので、「鉄のように硬く、むらがって生える草」との意味の名前がついています。

 雄花と雌花があり、両方が絡まり合って咲いています。雄花は小さく、多くの花粉を飛ばし、雌花はビールを造るときに使うホップに似ています。

 

 万葉集にはこんな歌が残されています。

 「思ふ人 来むと知りせば 八重葎 おほえる庭に 珠敷かましを」

 あなたが来ると知っていたら、草に覆われた庭にきれいな石を敷いておいたものを──。ヤエムグラというアカネ科の植物もありますが、ここでは、カナムグラなどが幾重にも覆い被さっている様を、〝八重葎〟と表現しているのだと思います。この歌のお返しがまた素敵なのです。

「珠敷ける 家も何せむ 八重葎 おほえる小屋も 妹(いも)と居りては」(作者不詳)

 珠を敷いた家が何だと言うのですか。草に覆われた小屋でも、君とさえ居られたらそれでいいのです──。恋人同士のメールやラインのやり取りも結構ですが、たった31文字でお互いの心が通い合うこんなのもいいものですね。

(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)

(ニュース和歌山/2022年11月19日更新)