月草に 衣は摺らむ 朝露に 濡れての後は うつろひぬとも  作者未詳

 

 和歌山市岩橋の紀伊風土記の丘内、万葉植物園の中央の階段を上りきると、大きなアラカシの木があります。さらに奥が梅園になっています。そのウメの木の根元にツユクサがまとまって生えています。

 ツユクサは、道の脇や花壇の隅など万葉植物園以外でもいろいろなところに生える普通の草です。花は青と黄色とのコントラストがとてもきれいです。野外で見かける草花で青色の花は少ないので、よく目につきます。

 花の作りが変わっていて、観察すると感動します。3枚の花びらのうち、上の1㌢足らずの2枚が青く、左右に広がります。残り1枚は小さくて白く、下についています。黄色に目立つのは仮のおしべで4本あり、花粉を出す2本は長く伸びます。めしべも長く伸び、先が丸まっています。

 この草は、摘んで水にさしておくだけで、すぐに節から根を出すほど元気なのですが、きれいな花は朝に咲いて、昼過ぎにはしぼんでしまう短い命です。また、昔はこの草で布を染めましたが、すぐに色あせるので、やがて冷め、移ろう儚(はかな)い恋心をこの草に例えました。
 万葉集にはこんな歌があります。

 「月草に 衣は摺(す)らむ 朝露に 濡(ぬ)れての後は うつろひぬとも」

 月草はツユクサの古名です。「ツユクサで私の衣を染めましょう。たとえ朝露にぬれて色があせてしまうことがあるとしても」というような意味でしょうか。作者は男性でしょうか、女性でしょうか。 (和歌山県立紀伊風土記の丘非常勤職員、松下太)

(ニュース和歌山/2019年6月26日更新)