春されば 卯の花ぐたし 我が越えし 妹が垣間は 荒れにけるかも 作者不詳

 卯の花と聞くと、「卯の花のにおう垣根にほととぎす早も来啼(きな)きて…」という唱歌『夏は来ぬ』の歌詞を思い浮かべる方もおられるのではないでしょうか。初夏の野山の情景を季節感豊かに表現していて素晴らしいですよね。

 卯の花は旧暦の4月〝卯月〟に咲くので、その名が付いたと言われています。ですが、卯の花が咲く季節だから旧暦の4月を卯月と言うんだという方もいらっしゃるようで、どちらが本当か定かでありませんが、いずれにせよ旧暦の4月とは今のカレンダーでは4月の下旬から5月の下旬ごろのことです。

 卯の花の標準和名は「ウツギ」で、漢字では「空木」と書きます。茎が中空なのでこの字が当てられています。紀伊風土記の丘の万葉植物園の入り口手前にはウツギの垣根があり、白い花が道まで垂れ下がるように咲きます。少し汗ばむ日が多くなるこの時期にウツギの白い花を見ると、しばし暑さを忘れます。

 万葉集には卯の花を歌った歌が24首もあるそうです。その中のこんな歌を紹介します。

 「春されば 卯の花ぐたし 我が越えし 妹が垣間は 荒れにけるかも」

 春の季節に卯の花を傷めながらくぐってまで愛しい女性のもとに通った垣根は、今はこんなに荒れ果てているなあ…という意味です。昔の恋人を思い出しているのでしょうか。(和歌山県立紀伊風土記の丘、松下太)

(ニュース和歌山/2020年5月16日更新)