去年咲きし 久木今咲く 徒に 土にか落ちむ 見る人なしに 作者未詳

 6月の花といえば、アジサイを思い浮かべる方が多いと思いますが、今回はご存知の方が少なくて、かつ普段よく見かけるアカメガシワを紹介します。

 この聞き慣れないアカメガシワですが、実は家の周りをちょっと散歩するだけで何本か目にするほど、どこにでも生えている木です。紀伊風土記の丘にもたくさんありますよ。

 カシワと聞くと、柏餅を連想しますが、店で売っている柏餅の葉はブナ科のカシワの葉が多いようです。アカメガシワはトウダイグサ科で、カシワとは全く別の種類。もともと〝かしわ〟とは食べ物を包むものという意味があり、今でも和歌山県の南部では、混ぜご飯をアカメガシワの葉に包んだお寿司が郷土料理として伝わっています。春に出る新芽は写真のように真っ赤で、夏には食べ物を包めるほど大きな葉になるため、この名前が付きました。

 花は白に近く、花びらもないので全く目立ちません。でもよく見てください。雄株と雌株があり、それぞれに雄花と雌花が咲きます。これが分かればあなたも立派な植物博士です。

 万葉集にはこんな歌があります。

 「去年咲きし 久木今咲く 徒に 土にか落ちむ 見る人なしに」

 去年咲いたアカメガシワが今年も咲いた。でも、今年は一緒に見る人もおらず、ただいたずらに地面に落ちるのだろうか…という意味です。こんなありふれた木にも、万葉人は風情を感じ、情感を込めて歌に詠んだのですね。 (県立紀伊風土記の丘、松下太)

写真=春に出る新芽は赤い(写真右)。左上は雄株、左下は雌株で、それぞれの花が咲く

(ニュース和歌山/2020年6月20日更新)