大崎の 荒磯の渡り 延ふ葛の 行方も無くや 恋ひ渡りなむ 作者未詳

 クズはマメ科のつる草で、荒れ地や川原などによく生え、長いつるを伸ばして一面に生え広がります。鉄道の線路沿いに生えると、電柱などに巻きついて送電に支障をきたしたり、太陽光発電の施設ではパネルを覆ってしまい発電効率を下げたりと、かなり厄介者扱いされています。装飾用に外国へ持ち出されたクズはグリーンモンスターと呼ばれ、現地でまん延し、恐れられているそうです。

 その一方、根は肥大し良質のデンプンがとれます。それが「くず粉」です。吉野葛などが有名ですね。また、漢方薬の「葛根湯」は漢字を見ただけでクズの根からできていることが分かります。
 長いつるは、柔らかい上に太さが均一で扱いやすく、籠(かご)やリース作りに適します。所々にあるふくらみは、白と黒のパンダカラーのオジロアシナガゾウムシという1㌢ほどの昆虫が卵を産み付けたためにできた虫こぶです。

 花はフジの花を逆さまにしたような姿で上に向かって咲きます。秋の七草の一つで、ハギやオミナエシなどと共に季節を代表する草花ですが、万葉集には花ではなく、つるを詠んだこんな恋の歌があります。 

 「大崎の 荒磯(ありそ)の渡り 延(は)ふ葛の 行方(ゆくへ)も無くや 恋ひ渡りなむ」

 大崎の荒磯にある渡し場に生え広がるクズのつるのように、行く末も分からないまま、私はあなたを思い続けるのでしょうか…。つるがどの方向に、どこまで伸びていくのか分からない様を、自分の恋心に例えているのでしょう。大崎とは現在の海南市下津町の大崎のことです。 (県立紀伊風土記の丘、松下太)

写真=茎から繊維を取り出し織られた葛布は日本三大古代布の一つに数えられます

(ニュース和歌山/2020年8月15日更新)