池の辺(へ)の 小槻(をつき)が下の 細竹(しの)な刈りそね それをだに 君が形見に 見つつ偲はむ 柿本人麻呂歌集による

 JR和歌山駅から和歌山城まで続くけやき大通りは、和歌山市街を東西に貫く広い道です。通りにはその名前の元となったニレ科の落葉高木、ケヤキがたくさん植えられています。

 秋になると、枝葉が付いた状態で熟した種子を風で飛ばします。小さな種子だけだと下に落ちてしまいますが、そうすることで広範囲に種子を拡散させているのです。

 ケヤキは幹が太くまっすぐに伸びて、先の方で枝が大きく広がります。それで成長すると、まるでほうきを逆さまに立てたような樹形になります。それがよく分かるのが葉を全て落としてしまう今の季節なのです。慣れると葉が付いていなくても、遠くから見ただけでケヤキと分かるので、それを見つけるのも冬の散歩の楽しみの一つですね。

 万葉集にケヤキは「つき」との名前で登場し、こんな歌が残されています。

 「池の辺の 小槻が下の 細竹な刈りそね それをだに 君が形見に 見つつ偲はむ」

 池のほとりにあるケヤキの下の竹は刈ってくれるな。せめてその竹を君だと思いながら眺めて、君のことを偲(しの)ぶことにしよう──という意味でしょうか。

 今はもう逢えなくなった好きな人のことを細い竹に重ねて、その人を偲ぶなんて、何と淋(さび)しい歌なのでしょう。 (和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)

(ニュース和歌山/2021年12月18日更新)