認知症を患う人が徘徊(はいかい)して行方不明となり、保護されるケースが全国で増えている。その捜索に活躍するのが警察犬。ただ、県内の警察犬はすべて民間人が飼育する嘱託犬のため、急な出動要請への対応には限界がある。高齢化が急速に進む和歌山は、対策が急務となっている。

 県内で行方不明になった認知症患者の保護件数は、2013年の23人から、14年、15年は各37人、昨年は11月末で40人と増える傾向にある。全不明者数は13年の597人から406人へ大幅に減少したことを考えると、認知症者が全体に占める割合は高まっている。

警察犬 不明者の捜索活動に警察犬が出動した件数は、県内ではここ数年、20~30件ほどで増減を繰り返すが、10数件だった10~15年前と比べると増加。全国では06年の3028件が15年には6141件と2倍以上になった。一方で、犯罪捜査での出動は3780件が2827件となり、不明者捜索の半数以下にまで下がった。

 県内の警察犬は33頭で、警察が飼育する直轄犬はいない。普段は嘱託犬に出動を要請するが、現場到着までに時間がかかり、また、出動できないこともある。昨年8月に和歌山市で起きた発砲事件では、銃を持ったまま逃走する犯人の捜索が課題となったが、警察犬と共に出動する民間の指導手には依頼しにくいとの事情もある。

 指導手として30年近く警察犬にかかわる和歌山市小倉の三谷博一さんは、認知症不明者の捜索に何度も出動。元警察官の経歴から、犯罪捜索時に声がかかることが多いが、最近は不明者捜索が主になった。相棒のテラと共に駆け回り、自宅近くの倉庫で床下に転落していた男性や、川の中で息絶えていた男性を発見してきた。

 三谷さんは、指導手の高齢化が進む上、警察犬に適するシェパードは大型犬で飼う人が少ないことから、「警察犬が今後減るのは目に見えている」と指摘する。

 県警生活安全企画課は「高齢化による認知症者が増えるに伴い、徘徊者も増加する」とみる。警察犬を管轄する鑑識課も「民間の嘱託犬だけでは、不明者捜索はもちろん犯罪捜査にも十分ではない」と直轄犬導入に向け予算確保に動いている。

(2017年1月11日号掲載)