1945年7月9日の和歌山大空襲で焼失した徳川吉宗寄進の太刀「光世(みつよ)」を復元しようと、和歌山市片岡町の刺田比古神社が7月13日㊊、「光世プロジェクト」を始動する。詳細な計測データと最新の3D技術を駆使し、失われた地域の宝を現代によみがえらせるかつてない試み。同神社の岡本和宜禰宜は「単なる文化財の復元にとどまらず、戦災の記憶を後世に伝える意味もある。和歌山の歴史を知り、ふるさとを見つめ直す機会にしたい」と願いを込める。
被災した旧国宝
太刀「光世」は、平安時代末に筑後で活躍した刀工・三池典太(みいけてんた)光世の作。天下五剣の一つ「大典太光世」や徳川家康の愛刀「ソハヤノツルギ」で知られ、「光世」はこれらの兄弟刀とされる。鎌倉時代の作刀で長さは約70㌢。金具や鞘(さや)には割菱紋(わりびしもん)が施され、柄(つか)を収める茎(なかご)に「光世」の銘が切られている=右円内。1922(大正11)年、旧国宝指定。
同神社は八代将軍徳川吉宗の「拾い親」の由緒を持つ和歌山城守護神。吉宗は将軍就任時、同神社を含む紀伊国9社に太刀を寄進したが、明治時代に熊野本宮大社の「為清」は水害で流失、紀州東照宮の「国時」は盗難で破損した。
刺田比古神社の「光世」も、81年前の和歌山大空襲で社殿とともに被災。刀身は奇跡的に救出されたものの、金箔を使った鞘や柄、鍔(つば)などの拵(こしらえ=外装)と、漆塗りの太刀箱は焼失した。刀身自体も炎の熱で歪み、炭化と赤錆が進んでいる。岡本禰宜は約20年前から「何とか元の姿に」と試行錯誤してきたが、損傷の激しさと資料の少なさから暗礁に乗り上げていた。
先端技術を活用
突破口となったのが、紀美野町の博物模型専門会社「アンフィ合同会社」との出会いだった。X線CTや3Dスキャナーなどを用いて絶滅生物などの骨格レプリカを製作する同社の技術を知った岡本禰宜は、「ここなら実現できるかもしれない」と直感。早速足を運び、佐々木彰央代表に熱い想いを語ったところ、「歴史的に重要な太刀を復元し、多くの人に知ってもらう取り組みは素晴らしい。これまでの文化財復元の経験と技術を活かし、ぜひ協力したい」と快諾を得た。
計画では「光世」の精密計測に加え、文化庁所蔵の古写真や文献、現存する吉宗寄進の太刀を3Dスキャンして詳細なデータを収集。入念な比較検証を重ねた上で、3Dプリンターによる型枠成形に刀工の技を組み合わせて刀身を造り、さらに、刀身にぴったりと合う拵を再現する。漆塗りの太刀箱は、海南の伝統工芸、黒江塗りの活用を予定している。
長年、岡本禰宜の構想を応援していた元県立博物館主査学芸員で、奈良大学の大河内智之文学部教授は「戦災で焼身(やけみ)となった刀剣を3D技術で復元する試みは前例がない。全国の被災刀剣を活用・保存していく上での希望の光になる」と期待を寄せる。
光世プロジェクト 痛みと再生の歴史 次代へ
クラファン開始 夏祭りで実物公開も
刺田比古神社所蔵の太刀「光世(みつよ)」を復元する「光世プロジェクト」。根底にあるのは、単なる文化財の復元ではなく、戦争の記憶の伝承と復興への強い思いだ。
「吉宗公寄進の宝刀が戦災を乗り越え、そして和歌山が復興したという『痛みと再生の歴史』を伝えたい」と岡本禰宜。「復元された実物を目にすることで、吉宗公の郷土への想いや歴史の重みがよりリアルに伝わるはず。先人たちが命がけで護ってきた和歌山のシンボルを現代の技術でよみがえらせ、後世に引き継ぎたい」と願っている。
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同プロジェクトでは協力者を募集中。クラウドファンディングは7月13日㊊から、「レディーフォー」で実施する。また、7月17日㊎18日㊏に同神社で行われる夏祭りで、太刀「光世」の実物が限定公開される。17日の本宮は午前11時〜、神事のみ。18日の宵宮は午後6時半〜、神輿渡御をはじめ、地元アーティストのライブや屋台、キッチンカーが並ぶ。同神社(073・426・6576)。
(ニュース和歌山/2026年7月4日更新)




























