動かなかった父と祖父の形見の時計4個が、再び時を刻み始めた。いずれも2人が付けなくなって50年以上がたつ。父のは30年余り前から筆者が愛用していたが、10年前に地面に落としてから動かず、祖父のはずっと止まったまま。何度か専門家に修理を依頼したが、その都度、「無理」と戻された▼先日、修理してくれる方を友人が紹介してくれた。持参した時計をチラリと見るなり、「直りますよ」。お願いすると、チェックを経て10日で戻ってきた。内部が破損した自動巻きは、手動式に。腐食した芯を新たに作り、修理ミスを見つけ、直したという▼手間のかかる修理は商売になりにくいはずで、業者が「修理不能」と戻すのもやむを得ないのか。元教師のその方は、「修理は趣味」と言い切る。だが、結果はプロ以上に思えた▼父や祖父の手にあり、共に歩みながらも、長らくタンスの肥やしとなっていた。1つ1つ身に付け、「こんな具合に文字盤をのぞいたのか」と考えながら、2人の人生に思いをはせた。 (小倉)