和歌山市広瀬地区の和歌川沿い、大橋の近くに江戸時代、「時鳥(ほととぎす)松」という大きな松があったそうだ。本紙発行の『城下町の風景Ⅱ』に、石屋の作業場近くに立つ松が描かれた当時の絵がある▼跡取りがなく、ある商家が途絶える時に立てた一本の松で、ホトトギスがよく鳴いたため名付けられた。絶えた実家を、残された娘の一人が夢にみて和歌を耳にした▼娘が都にいた姉に送ると、うわさを聞いた都の高貴な人たちから和歌や漢詩が数多く届いた。娘が夢で聞いた和歌を調べた。川風による波を何年もかぶってきた松の枝を思いやる内容だったようだ▼江戸時代の地誌「紀伊国名所図会」の絵図をもとにした『城下町の風景Ⅱ』では、活気ある駿河屋、紀の川の川渡し、徳川吉宗ゆかりの刺田比古神社と紀州の歴史を物語る場所を数多く紹介している。中でも「時鳥松」のような、庶民の喜怒哀楽を留める所があるのが魅力的だ。400年の時を超え、紀州に生きた人の温もりが伝わる気がする。(髙垣)

(ニュース和歌山2016年7月23日号掲載)