近代美術館 知らない世界と出合う機会に

 手作りと思えない完成度の消しゴムはんこ。和歌山県立近代美術館(和歌山市吹上)の職員が彫ったもので、展示作品の一部を切り取った独特のデザインと細かな技術が、「もはや版画の域」と知る人ぞ知る人気だ。これを使ったスタンプラリーを常時行っている。

 郷土作家の作品や国内外の近代版画収集に力を入れる同館。定期的に訪れてもらう工夫を考えていた青木加苗学芸員が2015年、受付職員と始めた。はんこの図案、加工、スタンプの台紙と全て職員の手作り。県出身の日本画家、野長瀬晩花が描いた「島の女」は足先、創作版画家、前田藤四郎の「時計」は手元のアップと、題材は展示品から選ぶ。

 5年半で作ったはんこは約50点。集めたスタンプの数で手作り缶バッジやマグネットなどをもらえる。表現豊かにはんこを彫る栗生恵里さんは「図柄や白黒のバランス、彫り方で押した時の印象が変わる。題材になった作品を見つけるのもオススメです」。地元の高校生カップルや小学生、高齢者と幅広いファンが親しんでいる。

 青木学芸員は「本来は捨てられていてもおかしくない昔のチラシが作品として並ぶ企画展もあり、このはんこも残したいと思ってもらえる存在が目標です。美術館は知らない世界に出合える場所。スタンプラリーをきっかけに足を運んでほしい」と目を細める。

 12月1日㊋〜20日㊐開催の企画展「美術館を展示する」で、スタンプや台紙をまとめて展示する。また年末まで、開館50周年に関する同館のラッピングバスかポスターを携帯電話で撮影し見せると、過去のスタンプを押せる。同館(073・436・8690)。

写真=発案した青木学芸員(左)と彫る作業担当の栗生さん

(ニュース和歌山/2020年11月28日更新)