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 虐待などで家庭に居場所を失った子どもを一定期間預かる「子どもシェルター」が今秋、県内に開設される。昨年末設立の「子どもシェルターるーも」が準備を進め、弁護士、医師、心理士らが子どもたちの居場所探しに寄り添う。 (2013年3月2日号より)

増える虐待 高まる意識

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 全国で頻発する児童虐待事件。増加傾向にある県内でも2013年7月に虐待死が疑われる事件(現在係争中)が発生し、市民に衝撃を与えた。一方、虐待など大人の都合で家庭で暮らせなくなった子どもたちを保護する子どもシェルターるーもの開設や市民からの通報増、高校生が虐待防止に向けた啓発劇を創作するなど虐待防止への意識の高まりがみられた。

子どもに寄り添う

 県内の児童虐待相談件数はここ数年、毎年過去最高を記録し、13年度は793件に上った。今年度も10月末時点で約600件と昨年度のペースを上回る。

 和歌山市毛見の児童相談所は12人の職員で児童虐待に対応しているが、職員1人が抱える案件は70~80件。50代職員は「近年は一人親や共働きの家庭が増え、時間的にも経済的にもゆとりがなくなり、子育てをする親が精神的に追い込まれがち。現場は起きてしまった虐待への対応で手いっぱいで、市町村の子育て支援機関との連携が欠かせない」と話す。

 こんな中、13年10月に開所したるーもは、児童福祉法の対象外となる18歳以上の未成年女子を中心に保護。子どもを連れ戻そうとする親から、弁護士が法に則して子どもを守るのが特徴で、全国で8番目に設置された。るーも理事長で県子どもを虐待から守る審議会会長の中川利彦弁護士(58)は「校則や体罰、いじめ、虐待と、子どもたちは常に社会問題にさらされてきた。緊張感に満ちた現代社会で大人たちはストレスがたまりやすく手を上げてしまう。施設の必要性が高まっていた」と振り返る。

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 これまで11〜20歳前後の17人が利用。施設職員や他の利用者と一緒に掃除や洗濯、料理などをこなし、一緒に暮らしながら心のケアを図り、次の居場所を探す。すでに14人が退所しており、弁護士の調停で自宅へ帰る子、児童養護施設へ入る子、里親の元で暮らす子と様々だ。

 運営を支える森亮介弁護士(30)は「子どもの声を代弁すると、『初めて気持ちを知った』と理解する親もいます。予想以上の需要で、支援の網から漏れた子を受け止める機関が足りていない。シェルターで短期間のフォローができても、その後、継続的に見守る仕組みが必要だと思う」と語る。

孤立させない社会

 「毎日隣から子どもの泣き声が…」「怒鳴り声が聞こえる」。市民から児童相談所に寄せられる声は08年度の24件から13年度は120件に増加。13年7月の事件を受け、児童相談所と検察の情報共有や、親子の関わりを見直す手法、トリプルPの研修を県内全市町村で行うなど行政も本腰を入れ始めた。

 この流れに若い世代も呼応し13年、和歌山市吹上の桐蔭高校演劇部と紀美野町真国宮のりら創造芸術高等専修学校が、虐待をテーマにした演劇を創作。桐蔭は、弁護士にインタビューし、書籍を読んで虐待への理解を深め、オリジナルストーリーを考えた。今年2月に開かれたるーもの設立シンポジウムで上演し、花光佑季さん(17)は「虐待を受けた子の辛さを思うと演じている中で自然と涙があふれました」。池田明吹夏(あすか)部長(17)は「シェルターを知ってもらい支援の輪が広がれば、救える子も多くなるはず」と期待する。

 るーもの中川理事長は「周囲との関係が希薄な子育て世代の社会的孤立が背景にある。子育てを応援する活動が官民共に活発になれば虐待は減る。社会全体で子どもを育てていく意識が広がれば」と願っている。

写真=桐蔭演劇部による虐待防止啓発劇

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 「ニュース和歌山が伝えた半世紀」は毎週土曜号掲載です。

(ニュース和歌山2014年12月13日号掲載)