5月19日号で紹介した『城下町の風景』の裏話をひとつ。この企画の連載は10年前、和歌山市立博物館の額田雅裕さんとわかやま絵本の会代表の松下千恵さん(故人)からの提案だった▼当初、絵は『紀伊国名所図会』の複製本から活用を試みたが、段取りが難しく、「手元に実物があれば」とよく話した。そんな中、シリーズパートⅡの『和歌浦の風景』を始める前に私の家から、なんと『名所図会』の実物が出てきた。亡くなった祖父の所有物だった▼以来、いつでも絵が実物から取り込め、線の濃度を調整し彩色用の台紙が作れるようになった。今回の『増補精彩版』に至るシリーズを後押しできた▼時々、この話が私の所へ来たのを不思議に思う。私はただ担当者としてそこにいて偶然のパスに足を出した程度だが、それ以前に額田さんらと知り合っていたのを含め、すべてがつながっていたように感じる。企画者の熱意あってこそながら、街の精がもっと城下町たらんことを求めている…と勝手に考えている。 (髙垣)