フランス料理やイタリア料理に欠かせない食材、ハーブ。2年前に紀の川市で農業を始めた今木史典さん(54)は、「和歌山をハーブの産地に」とタイムやローズマリーなど15種類を栽培するほか、那賀振興局が主催する新規就農者ら対象の講習会で、育て方のコツや販路開拓の方法を惜しみなく伝える。今木さんは「ハーブは収益性が高く、軽いため女性やお年寄りにも取り扱いやすい。栽培農家、そして料理に使う一般家庭が増えれば」と情熱を燃やす。
10月に緑花センターで那賀振興局などが開いた郷土食カフェ。230人を集めたこの催し、那賀地域の伝統料理と並んで出されたのが、「なすとねごろ大唐のバジルソース」だった。「新しい味」と好評で、ハーブティー試飲コーナーも列が。材料となるハーブを提供したのは、今木さんだ。
料理が趣味の今木さんはピザやケーキに使うハーブを20年ほど前から自家栽培していた。2012年に脱サラし、県農業大学校社会人課程で1年学んだ後、13年に紀の川市北長田でハーブとトマトの栽培を始めた。現在、ハーブはビニールハウスと露地を合わせ8㌃、トマトは10㌃の畑で育てる。「収益の中心はハーブ。2年目にトマトを抜きました」と笑う。
国内で出回るハーブの大半は水耕栽培されたものだが、「乾燥した環境が好きな植物。うちは土で育てます」。栽培が盛んな地中海の環境に近づけるため、土に石灰を混ぜてアルカリ性にしたり、化学肥料を使わず、米ぬかや牛ふんを使ったり。こだわりをもって育てた作物は「日本一、日持ちする」と好評で、東京や京阪神のレストランから引き合いがある。
広い畑がなくても栽培が可能で、収益性が高いハーブに目をつけ、那賀振興局は今年7〜9月に計5回、今木さんを講師に講習会を開いた。第1回は新規就農者ら約40人、その後も継続して20人以上が受講した。
その一人、岩出市の北記世大(きよひろ)さん(33)は6月に桃山町でスイスチャードやビーツといった日本ではまだなじみの薄い西洋野菜の栽培を始めたばかり。7月に1回目の講習会を受けた直後、ハーブ栽培に取りかかり、めっけもん広場やミレニアシティで販売する。「販路の開拓は難しいが、だからこそ伸びしろがあると思う。スーパーなどの店頭でハーブを見て、香りを楽しんでもらう機会をつくり、一般家庭にも浸透してゆけば」と話す。
那賀振興局農業振興課は来年、ハーブの中でも人気のバジル、スペアミント、レモングラスの栽培技術について県農業試験場と連携して研究を進め、経営面でも農家を支援していく考えだ。同課は「生産者が増えれば大きな取引先からの受注にも対応できる。新規就農者の売上に役立つものとしてハーブを育てていきたい」と力を込める。
講習会受講者からは「産地にするため、ハーブ研究会をつくってはどうか」との声も。今木さんは「みんなの本気を感じる」と産地化への手応えを語る。「農家の高齢化が言われますが、安定した収入の基盤があれば若い人も増える。その1つのツールがハーブだと思います。那賀地域だけでなく、県全体を産地にしたい」。ハーブを栽培しながら、農業の未来も育てる。
なお、11月15日(日)に貴志川体育館などで開かれる産業まつりで、ハーブティーの試飲が行われる。
写真=「食卓にハーブを取り入れ彩りに」と今木さん
(ニュース和歌山2015年11月7日号掲載)