125年前に串本沖で起きたトルコ軍艦、エルトゥールル号の海難事故を題材にした映画『海難1890』が12月5日(土)、全国で公開される。ニュース和歌山配布地域ではジストシネマ和歌山とイオンシネマ和歌山で鑑賞できる。日本とトルコによる初の合作映画。田中光敏監督は「人に言われるわけでもなく、目の前の困っている人を助ける。そんな真心を感じてもらえる作品になりました。地元の人にもぜひ見てほしい」と話している。

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 オスマン帝国の親善訪日使節団を乗せた軍艦エルトゥールル号は、帰国中に串本沖で座礁し大破。618人が嵐の海に投げ出され、串本の大島にいた住民が決死の覚悟で救助にあたった。この出来事が両国の友好の礎となり、1985年に起きたイラン・イラク戦争ではトルコ政府が邦人を救出した。

 今作はこの史実を映画化。日本の外務省、トルコ政府の支援を受け、串本とトルコで撮影し、190人のエキストラが出演した。
Ⓒ2015 Ertugrul Film Partners

 

実現に10年 念願の映画化 支持者、住民ら出演

2015120589_kainanex 『海難1890』の映画化は、命がけでトルコ船員の救助にあたった村民の優しさと、それを語り継ぐトルコとの友好の歴史を伝えたいと、田嶋勝正串本町長が大学時代の同級生だった田中光敏監督に相談したのがきっかけだ。

 完成までに要した期間は約10年。映画化に尽力した市民団体「エルトゥールルが世界を救う」はこれまで田中監督を招いた講演会を和歌山市で開き、メンバーがトルコを訪れ、邦人をテヘランから救った飛行機を操縦した機長の家族と親ぼくを深めてきた。

 また、メンバーはエキストラとして作品に出演(写真)。 10月の試写会を前に65歳で急死した同会元監事の島村不二夫さんの妻、みどりさんは遺影を持って作品を鑑賞した。「トルコ船員を村民が歌いながら見送る シーンで大きな口を開けて歌っている夫を見つけました。作品の中で生き続けているようです」と笑顔を見せ、「生前、人のために欲もなく尽くす心が大切だと いつも口にしていました。この作品を日本だけでなく世界中の人に見てほしい」と願っている。

 同会の西廣真治さんは「地元の史実でありながら知らない人が多かった。映画を通じ、互いに思いやる精神の大切さを改めて認識し、そういった先人が地元にいたことを誇りに思ってもらえれば」と期待している。

 

「平和へのメッセージ未来へ」 出演者と監督が会見

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 公開に先立ち10月、大阪市内で記者会見が開かれ、主演の内野聖陽さん、忽那汐里(くつなしおり)さん、田中監督が出席した。

  串本でのロケについて、内野さんは「125年前に命を落としたトルコ船員たちに恥ずかしくない作品にしようと強く思いました」。忽那さんは「実際に事故が 起きた和歌山の現場に立つと、背中がゾクゾクとして、物語をきちんと伝えないとと責任を感じました」。 田中監督は串本町内で道に迷ったトルコ人キャスト を、町民が言葉が分からないながら察してホテルまで何度も送り届けてくれたエピソードを紹介し、「地元の人の優しさが『125年前の事件は日本だからこそ 助けてもらえたんだ』とトルコ人に実感をもたらしました」と振り返った。

 また、トルコでのロケについて、忽那さんは「皆がエルトゥールル号事件のことを知っていて、温かく迎えてくれた。エキストラも自分たちの知っている物語を映画化できる喜びにあふれ、それが画面から伝わってきます」と語った。

  作品について内野さんは「目の前の人を助けたい一心で動いた人々の姿は、素肌感覚で両国の友好を感じることができる。その礎が和歌山にあることが自分たち にとって宝だと思う」と強調。田中監督は「串本での炊き出しではイスラム教徒が食べられる食材を調べて用意してくれた。真心は今も受け継がれており、先人 が残した平和へのメッセージを次代に伝えていきたい」と展望を語っていた。

写真=左から忽那さん、内野さん、田中監督

(ニュース和歌山2015年12月5日号掲載)