「新型コロナウイルス感染症が収束したらしたいのは、旅行? 飲み会?」「焼酎、あなたは芋派? 麦派?」。そんな2択式の質問を書き添えた灰皿の利用状況を調べる社会実験を、和歌山大学システム工学部の吉田登研究室が和歌山市新内で実施した。和大附属中生も同様の吸い殻入れを磯の浦海水浴場に設置中。楽しんでもらいながら吸い殻を捨ててもらうこのアイデア、後を絶たないポイ捨て防止の切り札になるか──。

新内と磯の浦で取り組み ポイ捨て防止に期待

 柳通りの歩道、受動喫煙対策のため、植木鉢で囲んだスペースに灰皿が2台。その間に2択式の質問を掲示した。例えば「飲み会の後の締めは?」。「ラーメン」なら左、「お茶漬け」なら右へ捨ててもらう仕組みだ。

新内に置いた灰皿の〝投票〟状況を確認する吉田教授(右)と西廣さん

 

 吉田研究室が取り組んだこの社会実験は、ごみの散乱を防止する条例を昨年施行した県の委託を受けて実施した。初年度は道路や公園にどれぐらいごみがあるかを調査。道路は吸い殻が多く、「単に灰皿を置いても認知してもらいにくい。何か仕掛けが必要」(吉田教授)と質問を取り入れる形で設けた。

 ポイ捨ての多かった場所の一つ、新内を選び、9月6日~10月4日に導入。質問はほぼ1週間おきに変更した。期間中は毎朝、和大スタッフがチェックし、1ヵ月で202本の吸い殻が〝投票〟された。アロチ商店街の西廣真治さんは「道路がきれいになった印象。喫煙される方が利用してくれたのに加え、灰皿を設置したことを知った各店の意識が高まり、各自で拾い集めるようになったのもあると思います」と喜ぶ。

和大附属中生が磯の浦に設置した手作りの吸い殻入れ

 

 一方、和大附属中学校3年生の5人も9月16日、2択式の吸い殻入れを磯の浦海水浴場に設置した。SDGsについて学ぶ3年生140人全員が6月末、砂浜を清掃した際、浜辺に捨てられた吸い殻の多さが気になった。有志5人で解決方法を模索する中、「バロットビン」と呼ばれる投票式の吸い殻入れが置かれている国があるとインターネットで見つけた。

 手作りした吸い殻用ごみ箱は木製で、投票用に穴が2つ。燃えないよう、内部にアルミホイルをはった。添えた質問は「海に落ちているゴミについてどう思いますか?」。投票期間は11月上旬までの予定で、10月4日時点で「改善した方がいい」が「そのままでいい」の約4倍となっている。

 設置した一人、佐野陽(ひなた)さんは「これなら楽しく捨ててもらえると思いました。吸い殻も他のごみもそうですが、きちんとごみ箱に入れるマナー向上のきっかけになってほしい」。宮本ひなたさんは「吸い殻は小さい子が拾って口に入れたりする可能性もある。海の環境保全につなげられれば」と願う。

 新内での社会実験を終え、吉田教授は「灰皿やごみ箱を管理する人がおらず、汚い状態のままだと逆効果になる。常設や増設にはきれいに維持できる態勢が必要でしょう」と指摘。一方で、「社会的に望ましい行動に促すことをナッジというが、楽しみながらついやってしまうような工夫は必要。2択式の吸い殻入れは完成形ではないかもしれないけれど、その一歩になると思います」と話している。

(ニュース和歌山/2021年10月9日更新)