カットした髪が長さ31㌢あれば参加できるボランティア活動がある。柴咲コウさんや片瀬那奈さんら女性芸能人の間で広がるヘアドネーションだ。病気や事故で髪を失った子どもたちに医療用ウィッグを無料で提供する取り組みで、賛同する美容室が全国で増えている。和歌山県内でも約30店が登録。中でも和歌山市小雑賀のヘアーガレージ・ステージのオーナー、崎浜正好さん(44)は、7年前に娘を小児がんで亡くしたことをきっかけに始め、「提供者の温かな気持ちを患者に届けたい」と特別な思いを込める。

浸透するヘアドネーション 娘亡くした美容師 「思い届けたい」

 美容学校を卒業後、いくつかの職を経験した崎浜さん。長女の小学校入学を機に実家の建具店で働き始めた。そのころ、病気知らずだった5歳の次女が突然、小児がんを発症した。父子家庭で、亡くなるまでの1年間、病院へ毎日通った。放射線や抗がん剤治療で髪が抜けていく娘の姿を目の当たりにし、「まつ毛すら抜けてしまっても、明るく元気でした。けれど、帽子は必ずかぶっていました」。

 次女の他界後、病気と闘っていた娘の姿に励まされ、「自分も挑戦しよう」と2010年、自宅に美容室を構えた。同じように頑張っている子どもたちの力になるため、当時まだ浸透していなかったヘアドネーションに協力することにした。

 ヘアドネーションは欧米で広く知られており、国内では各地のNPOが取り組んでいる。中でも大阪市に拠点を置くジャパン・ヘア・ドネーション・アンド・チャリティー(JHD&C)は09年に国内で初めて活動を始めた。当初、1日30人ほどの髪しか届かなかったが、2年前に女優の柴咲コウさんが寄付したのをきっかけに賛同店が増え始め、今では全国約2000店から毎日150〜200人の髪が集まっている。

 JHD&Cに登録する崎浜さんの店では、これまで約30人が協力。子どもや学生、主婦が多く、海南や有田から訪れる人もいる。宮前小1年の北村愛姫(あき)ちゃんは今年3月、約60㌢だった髪を20㌢まで切って提供した。愛姫ちゃんは「初めて短くするのでドキドキしたけれど、使ってもらえると思うとうれしい気持ちになった」と笑顔。母親の美代子さん(30)は「生まれた時から前髪以外切らずに伸ばしていました。ウィッグを作って寄付するのはお金がかかりますが、髪の毛が役に立つなら参加できると思いました」。

 寄付で集まった髪は、JHD&Cが事故や病気で髪をなくした18歳以下の子どもから希望者を募り、採寸、加工を経て無料で提供する。これまで全国189人、県内でも2人が受け取った。崎浜さんは「芸能人の参加で知られるようになり、ここ1、2年で寄付者が急増しました。『色んな髪型を試してほしい』『患者さんの笑顔に』とそれぞれ思いが詰まっています」と語る。

 がん患者に手作りの帽子を贈るいきいき和歌山がんサポートの石井浩子さん(63)は「がんの告知に加え、見た目も変わる二重のショックは患者にとって大きな負担。子どものウィッグは種類が少なく、患者の気持ちを前向きにしてくれるこうした活動が広がってほしい」と願っている。

 寄付には切り口から毛先まで31㌢以上必要。カット代は店ごとに異なる。賛同店はJHD&Cホームページで閲覧可。

写真=崎浜さん(右)に切ってもらう愛姫ちゃん(中央)

(ニュース和歌山/2017年9月16日更新)