もうすぐ桜の季節。ソメイヨシノ、ヤマザクラ、ヒガンザクラなど約500本ある和歌山市の紀三井寺は毎年、春だけで約4万人が訪れます。そんな寺に残る桜にちなんだ面白い伝説、そして、和歌山の咲き始めの目安となる標本木について紹介します。

竜宮城のお土産

 紀三井寺が建てられたのは770年。寺をつくったのは為光というお坊さんです。

 為光が竜宮城から帰ってくる時、龍に7つのお土産を持たされました。その中にあった七本桜の苗木が、やがて寺全体に広がり──。そんな話が伝わっています。前田泰道貫主は「七本桜がどんな桜か分かっていませんが、ずっと桜とともに寺はありました」。

 昔からある桜は折れやすく、7年前から地元の人たちを中心とした「紀三井寺のさくらを守る会」が手入れしており、これまで苗木100本を植えました。田中尚会長は「花をつけるまで5年。虫を取り除き、肥料をやってと、手間はかかりますが、古くから知られる地元の宝なので守り続けたい」と思いを込めます。

写真=間もなく境内はピンク一色に染まる

戦争乗り越えて

 本堂の前には標本木と呼ばれる桜があります。毎年春になると和歌山地方気象台の職員がこの木をチェックし、5つ〜6つ以上の花が咲いていると、「和歌山で開花しました」と発表します。

 気象台によると、この木が標本木に選ばれたのは1953年。戦争で和歌山市内の桜が焼けてしまい、無事に残っていたこの桜が選ばれました。年をとって傷んでいますが、2010年から8年間、近畿で一番早く咲いています。

 咲き始めるのは毎年3月26日前後。前田貫主は「ソメイヨシノのピークは40歳で、標本木は100歳近いですが、今も頑張っています」。

松尾芭蕉は見られなかった?

 紀三井寺の桜は、江戸時代に描かれた『紀伊国名所図会』という本にも載っています。また、この時代に訪れた松尾芭蕉は「みあぐれば桜しもうて紀三井寺」(見上げれば桜が終わってしまっている紀三井寺だよ)と、桜を見逃してしまったことを残念がる俳句を詠んでいます。

(ニュース和歌山/2018年3月14日更新)