ニュース和歌山正月号恒例の「干支が主役! 創作童話コンクール」。今年は十二支のラスト、いのししが主人公の力作131作品が集まりました。最優秀賞は昨年に続き、海南市立大東小学校3年、宮尾美玖さんが輝きました。受賞作「みかんとぼく」を、漫画家、いわみせいじさんのイラストと合わせてお楽しみください。

 

最優秀賞 みかんとぼく

 

 ぼくは、みかんが大すきなイノシシだ。今日は、どこのみかん畑に食べに行こうかな。あっ、そう言えば、山の上の畑でおいしいみかんがあると聞いたぞ。行ってみよう。

 ハァ、ハァ、山の上は遠いなあ。まだまん中らへんだぞ。つかれたから周りを見てみよう。もう寒くなってきたから、こう葉が進んできてるぞ。秋にしか見られないけ色だなあ。もうすぐちょう上だぞ。

 あの畑だな。うわさ通りとてもきれいな赤いみかんだな。パクパクパク…ああ、おいしい。とてもあまいな。こんなおいしいみかんを食べられて、今日は、とても幸せな日だ。あっ、もうこんな時間だ。今日はイノシシ会ぎの日だ。森のどうくつに行かないと。

 どうくつに着くと、もうみんな着いていた。リーダーが言った。「やっとそろったね。では、始めよう。今日の会ぎの内ようは、人間にじゃまされず、どうすればみかんを食べられるかです」「さくがされてるから食べられないんだよ」「さらにさくが高くなっていたよ」「わなをしかけている人が多いよ」と、みんなが口々に言った。

 「しずかに。言いたい時は手を上げて言ってください」とリーダーが言った。「はい、ぼくたちも食べたいけど、人間たちが作ったみかんだから、食べる事ばかり考えたらだめと思います」「はい、ぼくもそうだと思います」「では、人間の気持ちも考えながら話し合おう」。リーダーが言った。

 「はい、たまに道にみかんが落ちているから、それを集めて食べたらいいと思います」「はい、それはいい考えだね。それなら人間も大へんじゃないね」「それはいい考えだね。その考えに反対の人はいませんか」「そんないい考えはうかばなかったよ。反対の人はいないよ」「じゃあ今から人間に話しに行こう。今日はとてもいい会ぎができたね」

 さっそく、みかん農家の家に相談しに行った。ピンポーン。「はーい、わあー、イノシシだ。なにしに来たんだ」「みかんを食べさせてほしくて相談しに来たんです。ぼくたち用に、いらないみかんをおいといてくれませんか」「うーん、どうしようかなあ。そんなかんたんには、あげられないよ」「分かりました。もうちょっといい方法を考えてきます。さようなら」

 帰り道、何が出来るかを考えてみた。ぼくたちのとくぎは、犬と同じくらい鼻がびん感な事だ。このとくぎでみかんのくさりをかぎ分けよう。その事をみんなに伝えたらさんせいしてくれた。

 次の日の朝、みかん取りの時間に合わせて畑に行ってみた。「おはようございます。あれから考えたんですけど、ぼくたちは鼻がいいので、くさったみかんをかぎ分けるお手伝いをさせてくれませんか」「それはいいねえ。ぜひ、やってもらおう」「やったあ。さんせいしてくれたぞ」

 次の日からイノシシのお手伝いが始まった。くさいなあ、くさりがあったら鼻がへんになりそうだったけど、がんばった。「ありがとう。くさりを分けてくれたから、仕事が楽になったよ」と言ってみかんを分けてくれた。「がんばった後のみかんはすごくおいしいなあ」

 こうしてイノシシと、人間のかん係が平和になり、ぼくは、大すきなみかんをたくさん食べられるようになった。

 

みかん育てる祖母の話 ヒントに

 「収穫の時期は週末になると、おばあちゃんの畑でのみかん取りや倉庫での仕分けを手伝います」。笑顔で話す宮尾さんは、みかんの産地、海南市下津町で暮らしています。

 祖母から聞くのは「育てたみかんをイノシシに食べられた」「柵の下から畑に入られた」との話。困っていると耳にしながらも、「悪く書きすぎるとイノシシがかわいそう」と、鼻の良さを生かし人間を手伝う話にしました。

 ちなみに、文中の〝くさり〟とは、熟しすぎてブヨブヨになったり、鳥につつかれたところにカビが生えたりして、くさったみかんのことだそうです。

写真=連覇に笑顔の宮尾さん

 


 

 ねずみ年の2008年にスタートした「干支が主役の創作童話コンクール」。いのししがテーマの今回は小学生77人、中学生1人、高校生53人の計131人から応募がありました。結果は上の表の通り。入賞6作品中、5作品が小学生となりました。

 最優秀賞は2年連続で宮尾さんでした。昨年は家族で旅行に行った際、留守番していた愛犬目線で楽しいストーリーを完成させましたが、今回はみかん畑に現れるいのししに頭を悩ませる祖母の話がヒントになったそう。身近なところに題材を見つけ、物語に仕上げてくれました。12回目を迎えたこのコンクールで連覇は初めてです。

 なお、審査員は、ニュース和歌山で「和歌山さんちのハッサクくん」「チャーラがひとりごと言うチャーラ」を連載する海南市出身の漫画家、いわみせいじさん、2014年に児童文芸新人賞を受賞した和歌山市出身の児童文学作家、嘉成晴香さん、県立図書館や保育園などで絵本の読み聞かせを行う「おはなしボランティアきいちご」の中村有里代表の3人。審査だけでなく、上位入賞作の挿絵を担当してきたいわみさんは「作者の心の中から湧き出た純粋な作品は魅力的に光っていました。〝自分らしいモノを創作する〟、その難しさ、楽しさを再確認させられた12年間でした。たくさんの楽しい作品、ありがとうございました」と話しています。

 優秀賞以下の入賞作は、1月3日以降のニュース和歌山で順次紹介します。

 

漫画家 いわみせいじ審査員

 作中のイノシシたちが人間の作ったみかんを勝手に食べるのではなく、会議を開き、人間と共存していこうというストーリーにひかれました。また、〝くさり〟という言葉に「みかん作りに携わる大人たちの元で暮らしているのだろうか…」と童話の内容を離れ、小学3年生の作者に思いをはせることにも、読者として喜びを感じるのでした。

 

 

児童文学作家 嘉成晴香審査員

 ファンタジーなのに、どこか現実的。イノシシが人間に相談に行くところが好きです。セリフを効果的に、そして無駄なく使うことで「本当にあるかも」と思わせてくれました。これ、難しいんですよね。読み手をぐいぐい物語の先へと引っぱっていけたのは、作者さんの体験に基づいたものだからかもしれません。2連覇、おめでとうございます! !

 

 

おはなしボランティア きいちご代表 中村有里審査員

 最初、「みかん」という言葉に、和歌山ならではのおはなしだなと思いました。書かれた文章から日常が伝わり、親しみがわいてきました。イノシシが人間のところに相談に行ったり、特技を生かして協力する場面では、立場は違ってもお互いを思いやる優しさが伝わってきました。読み終えた後に、私もみかんが食べたくなりました。

(ニュース和歌山/2019年1月1日更新)