吾がやどに もみつかへるで 見る毎に 妹(いも)をかけつつ 恋ひぬ日は無し 田村大嬢(たむらのおおいらつめ)

 秋が深まると野山は赤や黄色に彩られます。唱歌の『もみじ』では「秋の夕日に 照る山もみじ…」と歌われていますが、「もみじ」とはどんな木なのでしょう。

 実は「もみじ」という木はありません。赤や黄色に紅葉する植物を「もみじ」と呼んでいるのです。ですから、その続きでは「松をいろどる かえでやつたは…」と歌っていますね。常緑のマツに対して、紅葉するカエデやツタのことを指して「もみじ」と言っていることが分かります。

和歌山市内でもそろそろ見ごろのイロハカエデ

 

 でも、「もみじ」というと、ほとんどの人はカエデのことを思い浮かべるのではないでしょうか。そのカエデの中でも最も一般的なのはイロハカエデでしょう。別名イロハモミジとも呼ばれるこの木は、野山はもちろん、庭や公園、並木などでもよく見かけます。

 紀伊風土記の丘にはこのほかに、イタヤカエデ、ウリハダカエデなど何種類かのカエデが植えられています。ところで、カエデの仲間はこれまでカエデ科に分類されていましたが、今はムクロジ科に分類され、カエデ科という科は図鑑から消えました。

 万葉集にはカエデを歌った田村大嬢のこんな歌が残っています。

 吾がやどに もみつかへるで 見る毎に 妹をかけつつ 恋ひぬ日は無し

 私の家で美しく色づいているカエデを見るごとに、あなた(妹)を恋しく思わない日はありませんとの意味です。離れて暮らす妹のことを気に掛ける姉の優しさが感じ取れる歌です。(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)

(ニュース和歌山/2021年11月20日更新)