太平洋戦争を生き抜いた象の元へ、全国の子どもたちを乗せて走った「ぞう列車」。この実話が題材の合唱組曲『ぞうれっしゃがやってきた』を歌う和歌山ぞうれっしゃ合唱団が5年ぶりに結成され、7月の公演に向け団員を募っている。メンバー不足に悩んできたが、列車が走って70年の節目に有志が呼びかけた。正指揮の由井勝代表(87)は「子どもの歌声は元気がもらえ、大人を生き返らせる。一緒に歌い、感動を届けたい」と意気込む。

ぞうれっしゃ合唱団 再結成 5年ぶり公演へ仲間募る

 ♪ぞう列車よ急げ 空をかけて走れ♪ 組曲第10番『ぞうれっしゃよ走れ』を元気に歌う2歳~80代の団員。「ハ行ははっきり」「弾みをつけて歌いましょう」と副指揮、佐古雅哉さん(62)の指導で歌声に磨きをかける。

 戦時中、軍の命令で全国の動物園の生き物たちが殺される中、名古屋の東山動物園では園長の努力で2頭の象が生き残った。1949年、象を見たいと願う子どもたちを乗せ、全国から名古屋へぞう列車が走った。

 『ぞうれっしゃがやってきた』は、象が動物園に来たいきさつ、泣く泣く動物たちを殺す園長の心情、子どもたちの希望を乗せて走るぞう列車を全11曲、45分かけて歌う。86年の初演以来、全国に広がり、和歌山では90年に由井さんが呼びかけて合唱団を結成。20回の公演で子ども1500人、大人1800人が平和を願う歌声を響かせた。

 列車が走って70年の今年、全国で5000人が歌うプロジェクトに合わせ、元団員が再結成に動いた。昨年12月に練習を始め、経験者ら132人が参加。文夏ちゃん(5)、巴葉ちゃん(2)の孫2人と一緒に歌う高須明子さん(70)は「2人と同じ舞台に立つのが夢で、再結成を聞いて駆けつけました」、文夏ちゃんは「初めての曲で、家でみんなと練習しています」。3歳から参加する佐藤滉太朗くん(12)は「特に10番はリズムが良く、歌っていて楽しくなる。大人に負けず大きな声を出したい」と張り切る。

 練習以外でも、ピクニックや磯遊びと、常に子どもたちに寄り添ってきた由井さんを慕って参加する人も。がんと闘病中の辻薫子さん(63)は「親子で由井さんと歌った30年前の思い出がよみがえります。治療が合わず、骨も筋肉も弱りましたが、声を出せる喜びと歌を大切に思う気持ちを込めます」と打ち込む。

 由井さんの妻、耀子さん(85)は「夫が引っ張ってきた団をメンバーが手分けし、運営してくれている。ぞう列車を次の世代に引き継ぎ、今後も走り続けてほしい」。事務局を務める中北幸次さん(68)は「命や平和の尊さを歌ったこの曲を和歌山では由井さんが守り継いできてくれた。世代を越えて声を重ね、一つの作品に仕上げたい」と語る。

 7月27日㊏の公演に向け、5月末まで団員を募集。練習は土日のいずれか午後1時半、会場は日により異なる。次回は3月30日㊏、和歌山市小人町のあいあいセンター。入団金1000円、子ども500円。希望者は住所、氏名、年齢、電話番号を中北さん(FAX073・422・5919、メールspgcn608@yahoo.co.jp)。

写真=副指揮の佐古さん(右)が練習を引っ張る

(ニュース和歌山/2019年3月23日更新)