卓上に並ぶ手乗りサイズのかわいい植木鉢。黒、白、赤と、海南市の伝統産業、紀州漆器の技術を生かして塗りを施したものだ。この木製室内用プランター「Te Pot」(テポット)を開発したのは、海南市大野中の島安汎工芸製作所5代目、島圭佑さん(29)。「材料は世界遺産、熊野古道近くの森で森林育成のために間伐したヒノキです。間伐材は細く、建材に使いづらいため、その多くは利用されていない。『〝捨てられる〟材料を〝育てる〟器に』がコンセプトです」と胸を張る。

島安汎工芸製作所 島圭佑さん〜熊野古道の間伐材 植木鉢に

 島安汎工芸製作所は創業103年の漆器製造会社。島さんは短大で製品デザインを学んだ後、漆器の産地、石川県で5年間、ろくろを引いて木地を削り出す技術を磨き、2015年に帰郷した。

 昨年は「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」で、「匠」の1人に選ばれた。各地域の特色や技術を生かしてものづくりに打ち込む若い職人をレクサスが支援するプロジェクトで、サポートを受けて取り組んだのが、Te Potだ。島安汎工芸製作所は09年から熊野古道近くの間伐材を使い、重箱やビアカップなどを作ってきた。新たな商品を模索する中、「都会で働く女性に、手軽にいやしを届けられる商品を」と考えた。

 細い間伐材から切り出した8枚の小さな板を、上から見ると八角形になるように組み、その外周を丸く削り出す。この後は漆とウレタンの混合塗料を塗る作業。伝統の根来塗は表面の朱塗りを研ぎ出し、下地の黒漆が見えるようにするが、同社は下地を金色にし、黒、白、赤で上塗りする。根来塗同様、職人が手で1つずつ研ぎ出し作業を行っており、鮮やかな金色が味となる。

 木地作りから塗りまで全て手掛けて完成させた商品は、和室、洋室ともに合う3色に加え、木目の美しさを楽しんでもらうため、塗りを施していないタイプも用意した。

 材料となるヒノキは、間伐材の有効活用を進める田辺市中辺路木材加工場から仕入れる。同工場は「間伐は森を守るために大切な作業。間伐材を使うことは、生態系の保全、温暖化防止につながる。このような形で使ってもらえるのはありがたい」と歓迎する。

 島さんは「私自身、和歌山の自然にふれながら育ってきた。地元の材料を使いたいとの思いは、そうした経験からなんだと思います。地域のためになる作家として、これからも精進したい」と張り切っている。

 同社(073・482・3361)で展示・販売。10月末までクラウドファンディング(「Te Pot」)を実施中。

(ニュース和歌山/2019年8月10日更新)