熊野那智大社の裏から続く熊野古道を登り、大雲取越えに入る手前にぽつんと地蔵茶屋が現れる。その東に滝がある。

 古道の上流に牛鬼の滝(奥の比丘尼滝)があり、古道を挟んで下流に、山賊が尼を突き落としたという伝説が残る比丘尼滝。いずれも熊野参詣を物語る滝ではないか。

 牛鬼は、牛の首と蜘蛛の胴体を持つ姿で描かれることが多い。人の影を食べ、その人は死に至る。旅人は常に病気という不安と、山賊という恐怖に震えながら、この石倉峠を越えたに違いない。

 蟻のように多くの人々が行き交う熊野詣。敬けんな旅人を見下ろしているのが牛鬼の滝だ。滝を見上げていると、牛鬼がいまにも私を飲み込もうと見下ろしている…。そんな感覚が湧いてきた。

(ニュース和歌山/2017年12月2日更新)

大上敬史さん作製「和歌山県の滝」で、県内の滝が紹介されています。