未来ある子どもが自殺したとのニュースほど痛ましいものはありません。2019年度、小中高生の自殺は317人。うち188人が「原因不明」です。多くの子どもが胸のうちを見せず、命を絶っているのは衝撃です。06年の自殺対策基本法の制定以降、文部科学省も児童生徒の自殺予防対策を検討し、近年は子どもたちがSOSを出す、出し方に関する教育の推進を呼びかけ、自治体や学校で試行錯誤が始まっています。

 いち早くこのSOS教育のプログラムづくりに乗り出す動きが和歌山にあります。和歌山大学附属中学校では今春、2年生に向け、「SOS発信プロジェクト」と題したワークショップを行いました。

 プログラムのもとは智辯学園和歌山高校の生徒2人の考案です。昨年、メンタルヘルス対策をテーマに学生団体が主催した「WAKA×YAMA SUMMER IDEATHON」で発表され、1位に輝きました。和大附属小中、支援学校の3校で教育相談コーディネーターを務める藤田絵理子さんはプログラムの監修を担ったこともあり実践しました。

 プログラムは3部構成。最初は考案者の高校生が自らの体験を振り返り、心の動きやSOSをどう出したかを語ります。2部では精神科医が心の病などメンタルヘルス、自殺予防の正しい知識を伝えます。

 最後は生徒が4人一組となり、意見交換です。テーマは「こころの声を聞いてみよう」。ストレスへの対処法はある? 身体の症状に耳を傾けると、心の声は何と言っている? 藤田さんの問いに生徒たちは他の生徒の意見を聞き、自分はどうかと心の声に耳を澄まし語ります。

 同年代が導き手となり、ワークショップ経験者が後輩に伝える形を目指すのが「和歌山モデル」の特徴です。「悩みを言うのが恥ずかしいとか、つらいことは我慢とか、子どもたちは思いの伝達に遠慮がちです。ワークショップに正解はなく、生きるのが楽になるために語り合います。みんな違っていい。自分の安心安全を確認する作業が大切です」。藤田さんは語ります。

 ワークショップ後、生徒たちの表情は変わりました。心を表現する言葉や身振りが目に見えて増えたのです。アンケートでの「SOSを発信できそうか」との問いに8割が「出せる」。9割から「SOS教育は必要」との回答がありました。

 コロナ禍において生徒たちはどこか不安定で、インターネットでメンタルヘルスの知識を得ようとしているのが気がかりだったと藤田さんは言います。「正しい知識をだれがどう伝えるか」が根本的な問題です。「生徒は生まれた時からネットがある世代ですが、リアルな人間同士で困ったことを共有する文化が必要。そのためには子どもの声を大人が受信できなければなりません」

 学校だけでなく、子どもを取り巻くのは家庭、地域です。SOS教育の試みを理解すると同時に、何が子どもを追い込み、何がSOSをのみ込ませ、何がそれを見過ごさせるか。地域の当事者としてまず私たちが省みる必要があるようです。 (髙垣善信・ニュース和歌山主筆)

(ニュース和歌山/2021年6月5日更新)