根來塗師 伊藤惠さん 出張し金継ぎ体験教室

 毎日使っていた茶わんや湯のみなど、器が重ねてきた大切な思い出をよみがえらせようと、岩出市根来の根來塗師、伊藤惠さんが1日でできる金継ぎ技術を考案し、個人宅や店へ出向いて体験教室を行っている。「思い入れのある器は簡単に捨てられず、かといって金継ぎは時間がかかるため二の足を踏んでしまう。そういう方が、コロナ禍でできた時間を使い、自分で修復したいと連絡をくれます」と目を細める。

 根來寺敷地内の工房で根來塗を作る伊藤さん。新型コロナウイルスで体験イベントが難しい中、漆の良さを伝える方法を考えていたところ、金継ぎに興味のある人が多いことを知った。

 金継ぎは割れたり欠けたりした陶器を漆で接着し、金で装飾する、日本の伝統的な修復技法。工程が多く、乾燥にかかる時間を含めると1ヵ月以上必要なため、体験に向かない。そこで熱を加えると硬くなる漆の特性に着目。試作を重ね、30分ほどで乾燥する漆の配合を見つけた。継いだ部分を補強するため4回ほど塗り重ねても1日で修復可能。仕上げは従来の金のほか、すず粉、ピンクや青など5色の色漆を使うこともできる。

 昨年10月に始め、これまでに県内の個人宅や京都のカフェなど5ヵ所を訪問。結婚祝いの夫婦茶碗、1脚1脚自分で選んだカップなどの修復を手伝った。体験者からは「いつか直したいと置いていた。こうして再び使えるのがうれしい。継いだ後の方が愛着が出た」と喜びの声が聞かれる。

 漆の良さを知ってもらえるよう、体験時には根來塗に触れる機会も設ける。「漆器に興味を持つ人を増やしたい。使うことで風合いやつやが増す根來塗や漆器が昔のように日常使いされるようになれば」と期待している。

 詳細は「紀州根來塗 初根工房」HP

(ニュース和歌山/2021年1月30日更新)