医を多面的に考える

 医療と観光。前者は何らかの意味で健康を損なった時に関わるもの、後者は健康な人が楽しむことであり、「医療と観光は全然異なるサービスでは」と考える人もいると思います。しかし、実は4つの点で関わりがあります。

 第1は、観光地での医療対応です。ないに越したことはありませんが、観光地で医療の世話にならないといけない状況が発生する可能性があります。旅先でのケガ、食事や生物との接触などから何らかのウイルスや細菌に感染してしまう、熱中症、高山病、潜水病、エコノミー症候群など、それらの事象が起こる確率はゼロではありません。

 第2は、何らかの疾病やハンディを抱える人に対する観光です。目や耳、歩行、食事などに障害を持ち、旅行に消極的になっている人はいないでしょうか。観光地やホテル・旅館は健康な人を対象としてデザインされていることが多いですが、ちょっとした配慮で、どんな人も充実した非日常を楽しむことができます。バリアフリーがその典型ですが、これは地域全体で取り組まなければ意味がないということは念頭においておくべきでしょう。

 第3は、メディカルツーリズムと呼ばれる治療目的の観光。医療サービスを受けるために居住地とは異なる地域(特に海外)を訪問するもので、多くの場合、外科的手術を伴うため、一定期間の滞在が必要になります。初めて聞いた方も多いと思いますが、その世界市場は10兆円を超えると言われています。タイやインドのように、メディカルツーリズムで観光客を誘致することを国策として取り組んでいる国もあります。

 最後にヘルスツーリズムと呼ばれるものです。これは健康増進・維持・回復と、楽しみを複合した観光です。健康診断と観光をセットにした検診ツアー、癒しや健康回復が目的のセラピー(森林セラピー、アニマルセラピー、海洋セラピーなど)、脳トレツアー、健康増進を目的とした運動・レジャー、温泉療法など多岐にわたります。

 観光市場が成熟化している現在、観光地は顧客を誘致するために様々な努力をしています。ただし、医療という付加価値を前面に押し出している観光地はまだそれほど多くありません。超高齢化社会と呼ばれる現在、医療という価値を付加した観光商品の重要性はますます大きなものになるのではないでしょうか。

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 和歌山大学とニュース和歌山は原則毎月第1土曜に和歌山市西高松の松下会館で土曜講座を共催しています。次回は3月7日(土)午後2時、テーマは「『医の倫理』と医学研究の現状について」です。

(ニュース和歌山2015年2月28日号掲載)