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 健康志向や環境意識の高まりで全国的にブームになっているサイクリングを地域づくりに生かそうと、和歌山県は昨年度からサイクリングロードの整備を進めている。海、山、川沿いを走る総延長約800㌔の計画で、うち紀の川沿いの「川のルート」は8割が完成した。最初に整備が進んだ岩出市、紀の川市では、自転車によるまちづくりが成果を見せ始めている。

 サイクリングロードを生かした地域おこしは全国で盛り上がっている。広島県と愛媛県を結ぶしまなみ海道では、島民らが2005年に取り掛かり、当時3万台弱だったレンタサイクルが、昨年度は11万6000台に増加。国内外から走行目的の観光客が押し寄せ、今では「サイクリングの聖地」と呼ばれる人気だ。

 県が整備するサイクリングロードは、路面に青色の線を走らせ、交差点やポイントごとに方向と主要地点までの距離を表記している。海のルートは海岸沿い390㌔、山のルートは高野山、龍神、中辺路など山間部を数本に分け設定する。

 8割の整備が終わった川のルートは、橋本市のJR隅田駅から和歌山港の南海フェリー乗り場を結ぶ67㌔。車が走行できない河川敷道路を中心に紀の川沿いを通る。ルート設定に関わった紀の川サイクリングクラブの井口和彦事務局長は「山から海へと駆け抜ける道。世界遺産、柿に桃畑、田園、港と刻々と景色が変わり、初心者から上級者まで楽しめます」と語る。

 最初に整備した那賀地域では既に自転車を生かした取り組みが始まっている。同クラブは川のルートに着目し、ピンクリボンサイクリングを毎春開く。6回目の今年は全国から250人が参加。5割がリピーターだ。昨年は、那賀振興局らの呼びかけで自転車好きの女性5人が「紀の川ファンクル」を結成し、女子向けツアーをこれまで3回企画。「旬の果物と川沿いの雄大な景色が堪能できる」「交通量が少なく、平坦で走りやすい」と好評で、いずれも定員を上回る応募があった。

 地元では自転車が置けるラックを設置する飲食店もある。紀の川市下井阪のカフェ、LIFEは店頭にラックを設け、給水サービスも行う。オーナーの阪田知史さんは「ラックが自転車に乗る人を受け入れる目印になるのか、入りやすいと喜んでもらえます」と笑顔。

 県は8月、整備だけでなく、県全域で利活用を意識した取り組みにしようと「県サイクリングロード整備・利用促進連絡会」を発足。9月11日に国土交通省の担当者と全振興局、サイクリング団体と会議を行い、魅力的な打ち出し方とルート作りを話し合った。県地域政策課は「電車やバスの移動手段と合わせた複合的な取り組みを目指す。地元の意見を取り入れ、それぞれの地域の食、文化、歴史を五感で感じてもらえる周遊ルートにしていきたい」と描く。

 しまなみ海道の地域づくりを中心になり進めたNPO法人シクロツーリズムしまなみの宇都宮一成さんは「全国的に自転車に乗る人の目線での取り組みが多い中、しまなみ海道では地元の人に何が残せるか、役立つかを考えてきました。住民がいかに関われる仕組みづくりをするかが大事になるのでは」と話している。

写真=道の両端に青い線が引かれた「川のルート」

(ニュース和歌山2015年9月19日号掲載)