広い湯船に足を伸ばし、少し熱めのお湯に浸かりながら、頭の中は空っぽに、ぼーっとしながら一日の疲れをいやします。脱衣所では名前は知らないけれど、顔なじみになった人たちと何気ない会話が始まります。近所にある銭湯、裸の付き合いが最近の日課です。

 築約100年、大正時代末期に建てられた海南市の大正温泉に初めて行った時、レトロさと番台に座るおばちゃんの人柄、そして通う人たちの人情に魅了されました。それ以来ずっと、母と銭湯通いをしています。

 3年前、和歌山市から海南市へ私と一緒に引っ越してきた母にとっては、友だちが一人もいない新たな地になじむきっかけの一つになりました。脱衣所で気の合う人と郷里の思い出話に花を咲かせるようになった時は娘としてほっとしたことを覚えています。今では母も一人で通うほどになっています。私はシャワーを浴びるだけの生活をしていた4、5年前は風邪をよくひいていましたが、銭湯通いを始めてからは血行が良くなっているのか好調で、夜もぐっすりです。

 つい先日は、ずっと気になっていた和歌山市の幸福湯を初めて利用しました。2019年4月にリニューアルオープンしたこの銭湯の番台には、4代目を引き継いだ20代の女性が座っていました。デザイン性あふれるホームページ、SNSでの発信、タオルやステッカー、Tシャツなどのグッズは、若い世代の人が銭湯を知るきっかけとなっています。浴場のはり紙はクイズになっていて、また来たくなる仕掛けでした。20、30代の利用者も多く、小さい子どもを連れたお母さんに、常連さんらしき人たちが「大きくなったね」と声をかけるほほえましい光景を見ることができました。

 昭和の時代、数多くあった銭湯は全国的に減少しています。浴槽付き住宅で暮らすことが当たり前の現在ですが、コミュニティが希薄になってる今の時代だからこそ、銭湯で体験できる多世代交流、多種多様な人たちとの出会いは、価値がある。それだけに、今ある銭湯が一つでも多く未来に残ってほしいと思っています。

 皆さんは最近、銭湯を利用しましたか? ぜひ日常に取り入れてみませんか?

黒江コンシェルジュ 瀬戸山江理(毎月第2土曜担当)

(ニュース和歌山/2022年6月11日更新)