昼は咲き 夜は恋ひ寝る 合歓木の花 君のみ見めや 戯奴さへに見よ 紀女郎

 紀伊風土記の丘の万葉植物園、北東隅に大きなネムノキの木が2本あります。幹は比較的滑らかで、灰色です。

 木から少し離れて見上げると、枝先にピンク色の花が風に揺れています。それがネムノキの花です。マメ科の植物ですが、エンドウやソラマメのような花ではありません。綿毛のようなフワフワしたものがついています。それは長い雄しべが花から突き出ているのです。花を観察するには双眼鏡があれば便利です。でも、右側のサクラを隔てた所に小さなネムノキがあり、運良く花が咲いていたら、間近で観察できます。

 マメ科の植物ですから、豆ができます。さやは扁平(へんぺい)で、その中に豆が入っています。冬になると、葉はすべて落ちますが、豆だけは残って、北風に揺れます。

 万葉集にはこんな歌があります。

 「昼は咲き 夜は恋ひ寝(ぬ)る 合歓木(ねぶ)の花 君のみ見めや 戯奴(わけ)さへに見よ」

 合歓木がネムノキのことです。万葉植物園の立て札には「昼間は咲き、夜は恋いつつ寝るというねむのきの花です。あるじだけ見るべきでしょうか、おまえも見なさい」と口語訳が添えられています。

 歌では「恋ひ寝る 合歓木の花」となっていますが、寝るのは花ではなく葉です。ネムノキの葉は写真のように、小さな葉が鳥の羽のようにたくさん集まった「羽状複葉(うじょうふくよう)」と呼ばれるものです。それが夜になると真ん中の軸を中心に合わさるように閉じるのです。昔の人はその様子を見て、ネムノキが眠っていると思ったのでしょうね。(和歌山県立紀伊風土記の丘非常勤職員、松下太)

(ニュース和歌山/2019年7月10日更新)