桜花 今ぞ盛りと 人は云へど 我は不楽(さぶ)しも 君とし在らねば  大伴池主

 日本を代表する花として、人々に愛されているサクラ。紀伊風土記の丘にはソメイヨシノのほか、数種類のサトザクラの仲間が植えられ、来園者の目を楽しませています。

サトザクラ(御衣黄)

 サトザクラは大きく豪華な八重咲きの花が特徴で、それぞれの品種に名前があります。黄緑色の花びらが人気の「御衣黄(ぎょいこう)」は、安藤塚の北側に大きな木があり、駐車場から資料館までの進入路に植えられているのは「関山(かんざん)」です。

 また、2月ごろから濃い紅色の半開きの花を下向きに咲かせるカンヒザクラや、花びらが白いオオシマザクラもあります。山にはヤマザクラと、それによく似たカスミザクラが自生し、この2つは一見、同じように見えますが、カスミザクラはヤマザクラが散るころに咲き始めます。

カスミザクラ

 花や葉もよく観察すると違いがあります。ヤマザクラの花や葉の柄に毛はありませんが、カスミザクラは毛が生えています。両方の花が落ちていれば見比べてみてください。慣れると花が散った後でも葉一枚あれば見分けられますよ。

 万葉集にはサクラを詠んだ歌が40首余り。この中で大伴池主は次のような歌を残しています。

 「桜花 今ぞ盛りと 人は云へど 我は不楽しも 君とし在らねば」

 人は今こそが桜の花盛りと言って楽しんでいるけれど、私はちっとも楽しくない。君と一緒じゃないから…という意味でしょうか。ウメの花は一人でもしみじみと観賞できますが、桜はやっぱりだれかと楽しく見たいと思うのは、今も昔も同じようですね。(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)

(ニュース和歌山/2021年3月20日更新)