紫陽花の 八重咲く如く やつ代にを いませ我が背子(せこ) 見つつ偲(しの)はむ  橘諸兄(たちばなのもろえ)

 梅雨の時期に似合う花と言えば、まずアジサイを思い出す人が多いと思います。小さな子どもでも知っているなじみ深い花です。

色によって異なるアジサイの花言葉。紫色は「辛抱強い愛情」「清澄」「神秘」などだそう

 でも今、よく見かけるアジサイはほとんど外国から持ち込まれたもので、セイヨウアジサイやハイドランジャーなどと呼ばれています。18世紀の終わりごろ、日本のアジサイがヨーロッパに渡り、そこで様々な品種に改良され、再び日本に入ってきたものです。

 アジサイは小さな花がたくさん集まって一つの花になっています。花びらのように見えるのは萼(がく)で、真ん中にちょこんとあるのが花です。このような花を装飾花と呼びますが、それが花の周りにだけあるのがガクアジサイです。

 花の色は、土壌の性質や肥料などの関係で赤や青、紫などになります。また、そのような色素を持たないものは白い花になります。

 万葉集にアジサイを詠んだ歌は2首しかありませんが、橘諸兄はある宴席でこんな歌を残しています。

 「紫陽花の 八重咲く如く やつ代にを いませ我が背子 見つつ偲はむ」

 紫陽花の花がいくつも集まって一つの花になるように、いつまでも栄えてください。この花を見ながらお祈りいたしましょう…というような意味です。この歌には、当時、政治が安定せず、あすをも知れぬ日々が続いていたとの時代背景があります。そんな中、諸兄はこの宴席の主催者がいつまでも健康で栄えてほしいと願ったのでしょう。(県立紀伊風土記の丘職員、松下太)

(ニュース和歌山/2021年6月19日更新)